(2015年7月より不定期掲載)
「よくある子供向けのベタなラブストーリーかと思いきや、どこかに姿を消しちゃったかのように見えたイム・チャンサン監督、約十年ぶりの新作だったりする。しかも、大元が1990年に公開されたイ・ミョンセ監督第二作のリメイクなので、映画の出来栄えとは別の意味で興味深い作品だ」
サカモト
「イム・チャンサン監督と言えば、2004年の名作『大統領の理髪師(효자동 이발사)』が有名ですが、その後、とんと動向を聞かなかった人ですね」
サイゴウ
「『大統領の理髪師』公開当時、少し話す機会があったので、次回作について尋ねたら【時代劇】って答えが返って来た記憶があるんだけど、まさかそれから十年後にイ・ミョンセ作品のリメイクで帰ってくるとは…韓国映画界の動向って、ホント、ワケがわからない」
サカモト
「その【時代劇】については、単に投資者が見つからなかっただけだと思いますけどね。よくある話です」
サイゴウ
「今回のリメイク版は、結構な館数で公開されて、観客動員数も200万人超えたんだけど、ブロックバスターというよりもインディーズに近いテイストの作品だ。大手が配給に絡んでおらず、新参の企業が配給していることもあるんだけど、いわば準メジャーとも言える新しい形態かもしれない。映画自体もキャストはそれなりだけど、あんまりお金が掛かっているように見えないし…」
サカモト
「【ブロックバスターとインディーズの折衷】というモデルから、ちょっと先に進んだ形かもしれません。リスクを回避しながらも、見た目は【なんちゃってブロックバスター】という…」
サイゴウ
「ヒロインである新妻ミヨン演じているシン・ミナも、事務所変わってからは、アイドル女優からこういう【折衷系映画】のアイコンみたいになっちゃった」
サカモト
「でも、彼女も三十越えです。一昔前なら韓国芸能界にポシャられちゃう年齢ですけど、自らメジャーに背を向けたお陰で、女優としていい方向に転換しつつあるのでは?」
サイゴウ
「新夫ヨンミンは、ここ最近やたらと売れ始めているチョ・ジョンシクなんだけど、ちょっと微妙かな。故に今回の『私の愛、私の新婦』には【なんちゃってブロックバスター】の匂いが余計漂っている」
サカモト
「今回の作品に、今の韓国映画にはない違和感があるもう一つの理由は、やっぱりイム・チャンサン監督の持っている【色】にもあったのではないでしょうか。彼もまた、『シュリ』以降に始まった韓国映画中興期に登場した386世代監督のルーキーであり、今の30代から40代に掛かるくらいの映画監督にはない、独特の【匂い】を持っています。原型になっているイ・ミョンセ版がすでに古いこともあるでしょうけど、今風に見えても、どこか古風でオーソドックスな映画と言えるのではないでしょうか?」
サイゴウ
「各エピソードのアヴァンタイトルというか、繋ぎのシーンこそ、CGIビシバシなんだけど、話自体はエログロを極力排して、登場人物たちの心境をかなり丁寧に描いているし、よくあるネット動画やゲーム映像、MTV見過ぎ系の若手クリエイターが陥るような過剰なテクも使っていない。その分、泥臭くて古臭い気もするけど、軽薄な見た目とは違って、大人の観客にも受け入れられる映画になっていた。もっとも、イム・チャンサン監督の作家性みたいなものは全然感じなかったけどな」
サカモト
「おそらくですが、彼の商業デビュー作『私にも妻がいればいいのに(나도 아내가 있었으면 좋겠다)』(※)に近いのではないかと想像しているのですけど…」
(※)2000年に公開された、ソル・ギョング&チョン・ドヨン主演の作品。実はトウゴウもサカモトも観ていなかったりする。
サイゴウ
「映画全体に1990年代の匂いがするもんな。描いている時代は2000年以降の韓国なんだけど、時間が停まっている感じがした。でも、それだからこそ、地味だけど独特の風合いが出ていたんじゃないのかな?韓国映画に興味のない人には、韓国のTVドラマみたいにしか観えないかもしれないが、今はちょっと失われつつある韓国映画のテイストがそこかしこにあるんだよな」
サカモト
「1990年代の韓国の空気を知っている人にとっては、何か既視感があるかもしれませんね」
サイゴウ
「…とまあ、一見軽薄に見えても、何気でマニアックな異色作なんだけど、そういうオタク的視点を外してしまえば、実はどこにでもある凡作に過ぎなかったりする」
サカモト
「そこまで酷いとは思いませんでしたけど、秀作、佳作には今三歩ですか。根っ子が健全で人間の善良さを訴えている良作だったとは思うのですけど、チープさがどうしても免れず、それがちょっと残念です」
サイゴウ
「イム・チャンサン監督の登板は、おそらくイ・ミョンセ版と現代版の折衷、バランスを考えた上での事だったんじゃないかと思うし、その狙いは決して外れていないんだけど、どうも映画に元気が無いんだよね。キャストは手堅いし、真面目に演じていたとは思うんだけど、演出的に安全牌狙いといった感じで、安定しているけど発見や驚きがなかった。人によってはリメイクしたことに疑問を呈す人がいてもおかしくはない」
サカモト
「若者狙いで作ってはいるけど、【おっさんセンスがバレちゃった】、みたいなところがありましたね。古いということではないのですけど、韓国の二十代辺りが見ると、違和感があっても不思議ではないと思います」
サイゴウ
「まあ、それは欠点ではないけどね。これはあくまでも好みの問題かもしれないが、新婚生活がひとつのテーマだったとすれば、もっとエロスがあってもよかったと思う。もちろん、劇中、新婚のヨンミンとミヨンがすぐに発情してしまい、ところかまわず、まぐわっているシーンはあるんだけど、生臭さがなくて、それ故、二人の愛情は騒いでいる割に形式的で嘘臭く感じられもした。多分、シン・ミナやチョ・ジョンソク的には、あれがギリギリの線だったんだろうけど…そこら辺がちょっと残念」
サカモト
「セックスシーン出せば良い訳ではないのですが、韓国のメジャー俳優は、いつもそこら辺が弱いですよね。必然性があれば脱いでも決してマイナスではないのですけど」
サイゴウ
「シン・ミナがマジで脱いでいたら、観客動員数300万人くらいは行ったんじゃないか??まだ、彼女にはそれだけの力はあると思うよ」
サカモト
「結局、イ・ミョンセ版未見のまま行ったので、リメイクの意図はよく分からないのですけど、とりあえず、イム・チャンサン監督の復活だけは率直に喜びたいですね」
日本と韓国の裏側で暗躍する秘密情報機関JBI…
そこに所属する、二人のダメ局員ヨタ話。
★コードネーム 《 サイゴウ 》 …仕事にうんざりの中堅。そろそろ、引退か?
☆コードネーム 《 サカモト 》 … まだ、ちょっとだけフレッシュな人だが、最近バテ気味
韓国映画の箱
(星取り評について)
(★★★★ … よくも悪くも価値ある作品)
(★★★ … とりあえずお薦め)
(★★ … 劇場で観てもまあ、いいか)
(★ … DVDレンタル他、TVで十分)
(+1/2★ … ちょっとオマケ)
(-★ … 論外)
(★?…採点不可能)
『私の愛、私の新婦』(2014)★★ [韓国映画]
原題
『나의 사랑 나의 신부』
(2014)
★★
(韓国一般公開 2014年10月08日)
英語題名
『My Love, My Bride』
日本語訳題名
『私の愛、私の新婦』
(STORY)サイゴウ
かつて詩人になることを目指した公務員のヨンミン(=チョ・ジョンソク)と、イラストを書きながら美術予備校で教えているミヨン(=シン・ミナ)は、冗談のような勘違いから付き合い始め、交際四年を経て結婚した熱々の新婚だ。
いつでもどこでも下着を脱いでさかってしまう二人の姿は、周りから見ても幸福そのものに見えたが、タルス(=ペ・ジョンウ)ら昔からの友達たちや、仕事を新婦よりも優先してしまうヨンミンに対して、ミヨンの不満が段々と積り始める。
ミヨンは再会したかつての彼氏、チェ・ソンウ(=ユ・ハジュン)に心惹かれてしまい、ヨンミンは昔好きだったスンヒ(=ユン・ジョンヒ)の積極的なアプローチに揺らいでしまう。
ある日、生活保護を受けているパン・ヘイル(=チョン・ムソン)という老人を仕事で訪れたヨンミンは、彼が憧れの著名な詩人であることを知り驚くが、その指導を受けて、文学賞を目指すようになる。
やがて、夫への不満が爆発したミヨンは実家に戻ってしまい、ヨンミンの独り、詩作に励む毎日が始まるが…
「よくある子供向けのベタなラブストーリーかと思いきや、どこかに姿を消しちゃったかのように見えたイム・チャンサン監督、約十年ぶりの新作だったりする。しかも、大元が1990年に公開されたイ・ミョンセ監督第二作のリメイクなので、映画の出来栄えとは別の意味で興味深い作品だ」
サカモト
「イム・チャンサン監督と言えば、2004年の名作『大統領の理髪師(효자동 이발사)』が有名ですが、その後、とんと動向を聞かなかった人ですね」
サイゴウ
「『大統領の理髪師』公開当時、少し話す機会があったので、次回作について尋ねたら【時代劇】って答えが返って来た記憶があるんだけど、まさかそれから十年後にイ・ミョンセ作品のリメイクで帰ってくるとは…韓国映画界の動向って、ホント、ワケがわからない」
サカモト
「その【時代劇】については、単に投資者が見つからなかっただけだと思いますけどね。よくある話です」
サイゴウ
「今回のリメイク版は、結構な館数で公開されて、観客動員数も200万人超えたんだけど、ブロックバスターというよりもインディーズに近いテイストの作品だ。大手が配給に絡んでおらず、新参の企業が配給していることもあるんだけど、いわば準メジャーとも言える新しい形態かもしれない。映画自体もキャストはそれなりだけど、あんまりお金が掛かっているように見えないし…」
サカモト
「【ブロックバスターとインディーズの折衷】というモデルから、ちょっと先に進んだ形かもしれません。リスクを回避しながらも、見た目は【なんちゃってブロックバスター】という…」
サイゴウ
「ヒロインである新妻ミヨン演じているシン・ミナも、事務所変わってからは、アイドル女優からこういう【折衷系映画】のアイコンみたいになっちゃった」
サカモト
「でも、彼女も三十越えです。一昔前なら韓国芸能界にポシャられちゃう年齢ですけど、自らメジャーに背を向けたお陰で、女優としていい方向に転換しつつあるのでは?」
サイゴウ
「新夫ヨンミンは、ここ最近やたらと売れ始めているチョ・ジョンシクなんだけど、ちょっと微妙かな。故に今回の『私の愛、私の新婦』には【なんちゃってブロックバスター】の匂いが余計漂っている」
サカモト
「今回の作品に、今の韓国映画にはない違和感があるもう一つの理由は、やっぱりイム・チャンサン監督の持っている【色】にもあったのではないでしょうか。彼もまた、『シュリ』以降に始まった韓国映画中興期に登場した386世代監督のルーキーであり、今の30代から40代に掛かるくらいの映画監督にはない、独特の【匂い】を持っています。原型になっているイ・ミョンセ版がすでに古いこともあるでしょうけど、今風に見えても、どこか古風でオーソドックスな映画と言えるのではないでしょうか?」
サイゴウ
「各エピソードのアヴァンタイトルというか、繋ぎのシーンこそ、CGIビシバシなんだけど、話自体はエログロを極力排して、登場人物たちの心境をかなり丁寧に描いているし、よくあるネット動画やゲーム映像、MTV見過ぎ系の若手クリエイターが陥るような過剰なテクも使っていない。その分、泥臭くて古臭い気もするけど、軽薄な見た目とは違って、大人の観客にも受け入れられる映画になっていた。もっとも、イム・チャンサン監督の作家性みたいなものは全然感じなかったけどな」
サカモト
「おそらくですが、彼の商業デビュー作『私にも妻がいればいいのに(나도 아내가 있었으면 좋겠다)』(※)に近いのではないかと想像しているのですけど…」
(※)2000年に公開された、ソル・ギョング&チョン・ドヨン主演の作品。実はトウゴウもサカモトも観ていなかったりする。
サイゴウ
「映画全体に1990年代の匂いがするもんな。描いている時代は2000年以降の韓国なんだけど、時間が停まっている感じがした。でも、それだからこそ、地味だけど独特の風合いが出ていたんじゃないのかな?韓国映画に興味のない人には、韓国のTVドラマみたいにしか観えないかもしれないが、今はちょっと失われつつある韓国映画のテイストがそこかしこにあるんだよな」
サカモト
「1990年代の韓国の空気を知っている人にとっては、何か既視感があるかもしれませんね」
サイゴウ
「…とまあ、一見軽薄に見えても、何気でマニアックな異色作なんだけど、そういうオタク的視点を外してしまえば、実はどこにでもある凡作に過ぎなかったりする」
サカモト
「そこまで酷いとは思いませんでしたけど、秀作、佳作には今三歩ですか。根っ子が健全で人間の善良さを訴えている良作だったとは思うのですけど、チープさがどうしても免れず、それがちょっと残念です」
サイゴウ
「イム・チャンサン監督の登板は、おそらくイ・ミョンセ版と現代版の折衷、バランスを考えた上での事だったんじゃないかと思うし、その狙いは決して外れていないんだけど、どうも映画に元気が無いんだよね。キャストは手堅いし、真面目に演じていたとは思うんだけど、演出的に安全牌狙いといった感じで、安定しているけど発見や驚きがなかった。人によってはリメイクしたことに疑問を呈す人がいてもおかしくはない」
サカモト
「若者狙いで作ってはいるけど、【おっさんセンスがバレちゃった】、みたいなところがありましたね。古いということではないのですけど、韓国の二十代辺りが見ると、違和感があっても不思議ではないと思います」
サイゴウ
「まあ、それは欠点ではないけどね。これはあくまでも好みの問題かもしれないが、新婚生活がひとつのテーマだったとすれば、もっとエロスがあってもよかったと思う。もちろん、劇中、新婚のヨンミンとミヨンがすぐに発情してしまい、ところかまわず、まぐわっているシーンはあるんだけど、生臭さがなくて、それ故、二人の愛情は騒いでいる割に形式的で嘘臭く感じられもした。多分、シン・ミナやチョ・ジョンソク的には、あれがギリギリの線だったんだろうけど…そこら辺がちょっと残念」
サカモト
「セックスシーン出せば良い訳ではないのですが、韓国のメジャー俳優は、いつもそこら辺が弱いですよね。必然性があれば脱いでも決してマイナスではないのですけど」
サイゴウ
「シン・ミナがマジで脱いでいたら、観客動員数300万人くらいは行ったんじゃないか??まだ、彼女にはそれだけの力はあると思うよ」
サカモト
「結局、イ・ミョンセ版未見のまま行ったので、リメイクの意図はよく分からないのですけど、とりあえず、イム・チャンサン監督の復活だけは率直に喜びたいですね」
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