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(2015年7月より不定期掲載)
日本と韓国の裏側で暗躍する秘密情報機関JBI…
そこに所属する、二人のダメ局員ヨタ話。
★コードネーム 《 サイゴウ 》 …仕事にうんざりの中堅。そろそろ、引退か?
☆コードネーム 《 サカモト 》 … まだ、ちょっとだけフレッシュな人だが、最近バテ気味

韓国映画の箱

(星取り評について)
(★★★★ … よくも悪くも価値ある作品)
(★★★ … とりあえずお薦め)
(★★ … 劇場で観てもまあ、いいか)
(★ … DVDレンタル他、TVで十分)
(+1/2★ … ちょっとオマケ)
(-★ … 論外)
(★?…採点不可能)

『あなた、その川を渡らないで』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『님아, 그 강을 건너지 마오』
(2014)
★★★+1/2★
(韓国一般公開 2014年11月27日)

英語題名
『My Love, Don't Cross That River』

日本語訳題名
『あなた、その川を渡らないで』

その川.jpg

(STORY)
江原道の辺鄙な村で暮らす、妻カン・ゲヨル(=本人)と夫チョ・ビョンマン(=本人)は結婚して七十六年になる。

ゲヨルは89歳、ビョンマンは98歳だが、今も仲睦まじく新婚のよう。
子供たちは既に独立して家を出ており、二匹の雑種犬がいるだけだ。

夫婦の記念日には子供や孫達が集い、長寿と健康を祝ってくれるが、それはゲヨルにとって、幼い時分に世を去った六人の子供たちを思い出す哀しいひと時でもあった。

やがて季節が変わる頃。

以前から呼吸器の病気で眠れない夜を過ごすことが増えていたビョンマンだったが、症状が重篤化し、危篤状態に陥ってしまう。

知らせを受けた子供たちは実家に駆けつけるが、僻地故に病院は遠く、薬もなく、救急車を呼ぶことも出来ない。

家族たちの献身的な看病の末、一時的に小康状態まで回復するが、ビョンマンがゲヨルを一人残して三途の川を渡る時は刻々と迫っていた…

実在する夫婦とその家族の姿を、江原道の自然と四季を背景に描くドキュメンタリーの奇跡。
サイゴウ
「2014年末に封切られた韓国映画の中で、最大のダークホース、ぶっちぎりの場外ホームランだったのが、この『あなた、その川を渡らないで(님아, 그 강을 건너지 마오)』だったんじゃないかな?」

サカモト
「2014年末の韓国映画は多彩なラインナップでしたけど、これといって【ピン!】と来るような作品はありませんでしたからね」


サイゴウ
「ブロックバスター系は妙に安定した作品が並んじゃった印象があったけど、その代わり、インディーズ系はよくも悪くも元気な作品が並んだかもな。その先頭を突っ走ったのが『あなた、その川を渡らないで』だったとは思うんだけど、まさか、ここまでヒットしちゃうとは…」

サカモト
「2009年に韓国で封切られて、当時ドキュメンタリー映画としては画期的な大ヒットになった『牛の鈴音』の観客動員数(※)を軽く超えちゃいましたからね」
(※)KOFICの資料では『님아, 그 강을 건너지 마오』が累計480万1608人、『워낭소리』が累計293万4435人となっている。

サイゴウ
「『あなた、その川を渡らないで』が、なんでこんなに大ヒットしてしまったかはさっぱり分からないけど、韓国映画が無難とマニアック過ぎの両極端に分かれてしまったことに、多くの観客が飽きてしまったことも大きいと思う。それに、映画を観る層って、以前よりも高齢化して幅が広くなっているから、そういう人たちが、ビジネス優先でカチカチになり過ぎちゃった韓国映画に背を向け始めているんじゃないのかな?【またこれ?儂らにはついて行けん!】みたいな感じで…そこに偶然転がり出てきたのが、異端だけどオーソドックスな『あなた、その川を渡らないで』だったのでは??」

サカモト
「ネット環境の影響も大きいでしょうね。映画を観る前の段階で口コミが大きく影響してしまうという…みんな、マスコミや企業のお仕着せマーケティングや煽りを物凄く嫌う割に、ネット上の口コミに弱かったりしますから、何が引き金でヒットしたりコケたりするのか、予想がつきません」

サイゴウ
「【マーケティング】が見え見えみたいなブロックバスター系映画は、客を見下した行為として見られがちになっているんじゃないのか?」

サカモト
「『あなた、その川を渡らないで』は、そうした【わざとらしい】映画ビジネスから一歩身を引いた位置にある【良心的な作品】、みたいな印象があったのかもしれませんね」

サイゴウ
「実際はそういう映画産業の権力構造から完全に離れているというワケでもないとは思うんだけど、田舎に住むジイさん、バアさんの地味なお話だから、ピュアに見えちゃうのかもしれない」

サカモト
「韓国映画界から完全に遊離しまったら、しょぼい自主上映を細々やるしかないでしょうからね。でも、ちゃんとシネコンで掛かっていました」

サイゴウ
「この作品の大ヒットは、近頃アート系映画にちょっと力を注ぎ始めた某大手からすれば、【しめしめ…なんじゃない?】みたいな感じも正直しちゃうんだけど、ドキュメンタリーにこだわり続けているクリエイターにとっては朗報でもあるだろうから、彼らにとって今後の布石になってくれれば、とは思う」

サカモト
「『牛の鈴音』の大ヒットは、後で金銭絡みの大トラブルで大変なことになっちゃいましたけど、『あなた、その川を渡らないで』も同じ轍を踏んで欲しくないものですね」

サイゴウ
「さて、この『あなた、その川を渡らないで』もまた、作劇スタイルとしては『牛の鈴音』の系譜だろうな。もっとも、『牛の鈴音』がこうした【ドキュメンタリー素材で劇映画を作っちゃう】の【走り】というワケではなく、元々韓国ドキュメンタリーの定石スタイル、といってもいいんじゃないだろうか?」

サカモト
「実際の事象を取材しつつ、後からあれやこれやで【お話】を作ってしまう手法ですね。ヤラセっぽく見えますし、老夫婦を【喰い物にしているだけだろうが!】みたいにも見えますし、【お爺さんが逝っちゃったのは、強引な撮影が原因だろうが!】といった印象を抱かれても仕方ないんですけど、ドキュメンタリーはコラージュ芸術である、と開き直れば、これはこれで【アリ】、それほど角を立てることもないと思います」

サイゴウ
「山の中、深々と雪が振り続ける中で、薄着のおばあさんがさめざめと泣きながら夫の墓の前で嘆くシーンが秀逸で、ホント感動的なんだけど、その後、おばあさんが急死していたら、マジで洒落にならなかっただろう…」

サカモト
「まあ、『牛の鈴音』同様にツッコミどころのある【一応ドキュメンタリー】なのですが、ここまで感動的な【劇映画】として再構築できたのは、やっぱり作り手側の強運があったからだと思います」

サイゴウ
「ドキュメンタリーって、劇映画以上に狙った映像が撮れなかったりするからな。作り手の強運は必須だろう。ましてや、撮影対象が田舎の高齢者とその家族だったりするワケだから、【一体どうやって騙したんだろう?】と思いながら観ちゃったよ」

サカモト
「やらせに見える部分も多いですけど、本質から外れた大嘘はやっていないと思いますよ。逆に、あまりにも無邪気過ぎる老夫婦の姿には、【映画の神様】の後ろ盾を感じたくらいです」

サイゴウ
「韓国の田舎の人って、信じられないくらいに素朴だったりする事があるんだけど、それを巧みに捉えているよな。ただ、おじいさんが天然過ぎるのが気になった」

サカモト
「でも、そこに日本の【反韓・嫌韓】的主張から見えて来ない、韓国人の【素】もあったと思うのですが」

サイゴウ
「その朴訥さを賞賛しちゃうと、またまた韓国人を誤解する人が出てきそうだけどな」

サカモト
「どこまで本当で、どこまで嘘かは、私には分かりませんけど、あそこまで老夫婦がカメラの前で晒してくれた事は、率直に【偉い!】と思いましたけどね」

サイゴウ
「子どもや孫達が訪ねて来たことを率直に大喜びする反面、大昔に亡くした子供のことを思い涙するシーンや、危篤状態になったおじいさんの持ち物を竈で焼くところなんて、よく撮影できたと思う。老齢の飼い犬が自分たちより早く死んでしまい、泣き泣き葬るシーンもそうだな。ああいう場面って、撮っている方の良心がとがめちゃいそうだ」

サカモト
「この作品が韓国で歓迎された理由の一つに、老夫婦の豊か過ぎる喜怒哀楽があったのかもしれませんね。あそこまではっきりしている人は今の韓国でもあまりいないと思うのですよ。そこに【失われた古き良き過去】を感じた人が多かったのでは?」

サイゴウ
「【江原道の人たちは心が汚れていない】なんて、江原道出身の映画監督が自分で言っていたけど、『あなた、その川を渡らないで』を観ている限りでは、【嘘じゃないな】なんて思っちゃったよ」

サカモト
「でも、家族喧嘩は激しくて暴力的なのが、【やっぱり韓国だぁ】とも思いましたけどね」

サイゴウ
「ちょっと気になったのは、この映画にも、やっぱり【格差】や【福祉】の問題が含まれていたことかな?誰もいないような僻地に老人だけで暮らしている状況もそうだけど、おじいさんが酷い発作を起こし、危険な状態になっても、病院は無い、薬は無い、病院に運ぶ手段は無いで、結果的に家族が、おじいさんを見殺しにせざるをえなかったようにも見えちゃう」

サカモト
「それは日本の僻地でも似たようなものでしょうし、韓国だからといって、全てこういう訳ではないでしょう」

サイゴウ
「でも、ソウルにばかり巨大な総合医療施設が集中している異常さを、改めて感じたよ」

サカモト
「この『あなた、その川を渡らないで』に、そういう社会的なテーマを重ねても、あながち外れている訳ではないと思います。大ヒットした背景には、日本では見えにくい韓国社会の問題があったとは思いますからね」

サイゴウ
「そして、日本の家族関係はビジネスライクだなぁ、って、感じさせる映画でもあったな」

サカモト
「そのドライさもまた、韓国にはない【日本の良さ】ですけどね」

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