SSブログ
(2015年7月より不定期掲載)
日本と韓国の裏側で暗躍する秘密情報機関JBI…
そこに所属する、二人のダメ局員ヨタ話。
★コードネーム 《 サイゴウ 》 …仕事にうんざりの中堅。そろそろ、引退か?
☆コードネーム 《 サカモト 》 … まだ、ちょっとだけフレッシュな人だが、最近バテ気味

韓国映画の箱

(星取り評について)
(★★★★ … よくも悪くも価値ある作品)
(★★★ … とりあえずお薦め)
(★★ … 劇場で観てもまあ、いいか)
(★ … DVDレンタル他、TVで十分)
(+1/2★ … ちょっとオマケ)
(-★ … 論外)
(★?…採点不可能)

『神の一手』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『신의 한 수』
(2014)
(韓国一般公開 2014年7月3日)
★★★+1/2★

英語題名
『The Divine Move』

日本公開時題名
『神の一手』
(日本公開 2015年5月9日)

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(STORY)
将来を嘱望されていた若手棋士テソク(=チョン・ウソン)は、TV中継されていた大切な試合で負けたことを契機に、その転落人生が始まった。

ある土砂降りの夜、街場の碁会所で行われた賭け試合で、兄(=キム・ミョンス)の代わりとして隠れ打つが、そのイカサマがばれたことから、場を仕切る武闘派ヤクザ、サルス(=イ・ボムス)の命令により、部下アタリ(=チョン・ヘギョン)に兄を惨殺され、その犯人に仕立て上げられて、収監されてしまう。
だが、刑務所で使命を悟ったテソクは人生を諦めなかった。

プロ棋士として、その腕と知識活かし、同房の大物ヤクザ頭目(=チェ・イルファ)と信頼関係を築き上げ、自らの肉体を人間兵器として鍛え上げる。

やがて出所したテソクは、頭目庇護の元、サルスらに復讐をするべく仲間集めに奔走し、かつて仲間だったコンス(=キム・イングォン)を筆頭に、盲目の老棋士チュ老人(=アン・ソンギ)、隻腕のホ(=アン・ギルカン)らが集まり、壮絶な復讐戦が始まる。

テソクたちが最初に血祭りに上げたのは、鷺梁津の賭け碁会所を牛耳るアタリだった。
必殺のデコピンでアタリの両目を弾き潰したテソクは、次の狙いをサルスの腹心、キム・テホ(=チェ・ジニョク)に向ける。

バカ社長に扮したコンスが彼をおびき出すと、テソクは死闘の末、彼を拘束、冷凍庫内で死を賭した囲碁試合を行い、凍死させるのだった。

だが、最大の標的であるサルスは只者ではなかった。

頭脳明晰な彼はテソクたちの正体と、その意図に気づくと、逆にコンスとチュ老人を捕らえてしまう。

サルスの巧妙な手口に、囲碁試合に負けたチュ老人は殺され、ホにも刺客の手が迫っていた。

人質になったコンスを救い出すべく、敵のアジトに乗り込むテソクは、勝っても負けても死が待ち受けるであろう、サルスとの囲碁試合に挑む。
サイゴウ
「いやー、この『神の一手』は、まじもんで面白かった!劇画の独特な荒唐無稽さを、見事、実写映画に落とし込んだ傑作と言ってもいいんじゃないかな?できればこのノリで『オールドボーイ』をまた韓国で作り直して欲しいもんだ」

サカモト
「ふた昔前のおっさん向け劇画そのものの世界観なんですけど、その臭さと不自然さが逆にたまらないですね」

サイゴウ
「日本のVシネに近いノリだとは思うけど、ちょっと今の日本では作り難い、勢いとパワーを持っている。内容はハチャメチャだし不道徳、暴力ビシバシのピカレスク物。しかもエラく肥溜め臭いので、日本の韓国嫌いや韓流好きには敬遠されそうな映画かもしれないけど、野郎だったら国を越えて、血沸き肉踊る映画だと思うぞ。オレはこういう企画が好きじゃないんだけど、今回は例外」

サカモト
「エロが全くないというのも潔いですよね。あくまでも男の友情と戦いだけを極端な暴力で描き切っています。一応、申し訳程度に綺麗どころとしてイ・ジヨンが出ていますけど、どうでもいいような役回り」

サイゴウ
「登場人物は全員悪だし、おっさんばかり。でも、どういう訳か最後までワクワクしちゃう」

サカモト
「よくある社会正義論が一切出てこないのもいいです。最後はハッピーエンドなのかもしれませんけど、主人公たちが永久にアウトサイダーとして生きて行かなかればいけないことも暗示している訳で、辛口ですよね」

サイゴウ
「本筋が【悪VS悪】だから、悪役側は皆、本当に激悪の極悪だ。人としての良心は欠片すらない。でも、それが格好いい」

サカモト
「特にイ・ボムスの極悪ぶりは飛び抜けて素晴らしかったです。彼だってことは分かっていても全くそう見えない。多分、彼にとって代表作の一つになると思いますよ」

サイゴウ
「イ・ボムスが極悪役に、こんなにハマるとは驚きだったな。チョ・ウソン演じるテソクも最初は髭面でひ弱で情けない役だから、ちょっと新鮮だったけど、とてもイ・ボムスの名演には敵わない」

サカモト
「二人を支える面々も、ありそうでないようなキャスティングでしょう。キム・イングォンはまあ、デフォルトな役ですけど、アン・ソンギとアン・ギルガンを持ってきたことは素晴らしいです。二人とも期待通りの好演でしたし」

サイゴウ
「アン・ソンギ演じるチョ老人の最後はかなり悲惨だけど、泣かせるんだよね。改めて彼の素晴らしさがよく分かると思う」

サカモト
「サルスの手下を演じる俳優たちは地味ですが、劇画と実写の丁度いい折衷を体現していて、皆好演です。役作りをメーキャップに依存していないところもいい」

サイゴウ
「小間使いやっている、せむし男なんて最高だよな。今どき、あんなキャラが出てくる映画は滅多にないし、出て来ても普通は馴染まないよな」

サカモト
「演じたウォン・ジュナという人も芸達者ですし」

サイゴウ
「彼のような名脇役を観るたびに、韓国の俳優たちは侮れないことを痛感させられるよ」

サカモト
「さて、この作品、もう一つの見どころは賭け碁の世界を描いていることでしょう。【囲碁】と【暴力】は一見相反する事象に思えますが、【賭博】を介すことで、なんの違和感もなく融合していることが驚きでした」

サイゴウ
「オレが囲碁のことなんか全く知らない、っていうこともあるけれど、囲碁を映画の中心に持ってきて、ちゃんと娯楽作になっていたのも驚きだった。もちろん、映画の中では碁の対局を延々と映しているようなシーンはないけど、独特の緊張感がちゃんと伝わってくる演出だったし、【静】であるはずの囲碁が、裏社会の血腥い闘争劇の中に決して埋まっていないんだよな」

サカモト
「でも、囲碁はウォーゲームの一種とも言えるわけですから、意外と極道バイオレンスが醸し出す世界観に合っているのかもしれませんね」

サイゴウ
「高度な頭脳プレーが交わされる賭け囲碁がアンダーグランドで盛んに行われていて、その会所の空気が荒んでいるというのも説得力があるよな。あれって、【凶暴さ】と【理知的さ】の共存という、ヤクザそのものの暗喩にも思えた」

サカモト
「脚本のユ・ソンヒョプと監督のチョ・ボングは、そんなところまで狙って、この映画を仕立てた訳ではないと思うのですけど、描いているものはガラが悪いのに、その裏に凶暴な知性が潜んでいることを感じさせるので、そう見えるのかもしれません」

サイゴウ
「チョ・ボングの前作『クイック(퀵)』も、マンネリ・ネタを上手に捻って驚きのスーパー・アクションに仕立てた、という意味では素晴らしい作品だったけど、イマイチ突き抜け度が低くかった。だけど、『神の一手』は完全にイっちゃった感じで、それがまた、清々しささえ感じさせる」

サカモト
「あの【『양아치어조(チンピラ口調)』のチョ・ボングが…】という感じで、感無量ですね」

サイゴウ
「今の韓国映画界、この手の企画をやらせたら、卓抜しているクリエイターがゴロゴロしているから、いくら映画がヒットしてもチョ・ボング自身は決して安泰ではないけど、彼の作品って、真面目な人間ドラマとコミカルな軽さが必ずどこかにあって、それが魅力になってる。今後もその感覚を活かせれば、さらに面白い映画を作ってくれるんじゃないかな?『神の一手』が破綻していないのは、そういうバランスの良さから来ているところが大きいと思うよ」

サカモト
「この『神の一手』は2014年に公開された韓国映画の中でサプライズだった一本でしょうね」

サイゴウ
「もっとも、保守派やら、お堅い映画ファン、今だ韓国に美しいロマンスを求める人には【何これ!】って、ボロクソに毛嫌いされそうなタイプの映画ではあるけどな」


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『私の少女』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『도희야』
(2014)
★★★+1/2★
(韓国一般公開日 2014年5月22日)

英語題名
『A Girl at My Door』

日本語訳題名
『トヒよ』

日本初公開時題名
『扉の少女』
(2014年フィルメックスにて)

日本一般公開時題名
『私の少女』
(日本公開 2015年5月1日)

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(STORY)
そこは時間が停止したような海辺の邑だ。
排他的な空気が蔓延し、決して悪人ではないが、住人たちは弱者を平然と虐げる。
だが、地元警察は波風立てないよう、傍観しているだけだ。

ある日、ソウルから女性警察幹部ヨンナム(=ペ・ドゥナ)が、たった独りで赴任してくる。
建前上は地元署長として栄転だったが、ヨンナムの表情は暗く、しかもアルコール依存症に陥っていた。

途中、下着のまま、あぜ道に佇む一人の少女、トヒ(=キム・セロン)に出会うが、ヨンナムの問いかけには答えず、怯えるように姿を消してしまう。

職場に赴任したヨンナムを迎える男性警察官たちは皆冷ややかだ。
唯一若い警察官のエギョン(=コン・ミョン)だけが彼女に敬意を払ってくれる。

ヨンナムは同級生にいじめられているトヒと再会し、彼女の家へ連れ帰るが、そこは、あまりに酷い場所だった。

父親のヨンハ(=ソン・セビョク)は外国人労働者の斡旋をしている地元のチンピラで、事大主義丸出しの姑息な男だ。
祖母のチョムスン(=キム・ジング)は粗暴な老婆で、日頃三輪バイクで暴走行為を繰り返している。
母親の姿はない。

トヒが家族から恒常的に虐待を受けていることを知ったヨンアムは、強引にトヒを連れ帰り、二人の共同生活が始まる。
ヨンアムとの暮らしで、それまでの暴力と抑圧から解放されたトヒは見違えるように明るくなるが、過剰なまでにヨンアムへ依存して行く。

それはヨンナムにとっても、つかの間の楽しいひと時だったが、突然、若い女性ウンジョン(=チャン・ヒジン)がトヒの職場を訪れたことを境に、崩れ始める。

ヨンナムとウンジョンの秘められた関係を悟ったトヒは、自分が捨てられることを恐怖し、酒を飲んで荒れるが、ヨンナムはそのトヒの本性に危険を感じ、突き放すように実家に返してしまう。

だが、本当の悪夢はそこから始まった。
チョムスンがバイクごと海に転落し死亡するという事件が起こり、警察では単なる事故として処理されるが、ヨンナムは、ある嫌な予感を感じ取る…

女優ペ・ドゥナの新境地を開くと共に、韓国社会の深い闇に正面から挑んだゼロ世代の衝撃作。
サイゴウ
「全然チェックしていなかった作品だったけど、久しぶりに観て愕然とした韓国映画だった。【おばさん化が隠せないペ・ドゥナ】に、【デカくなりすぎたキム・セロン】という、考えようによっては韓国内で大きくズッコケかねないキャスティングで、こういう素晴らしい傑作をものにした製作陣には、観た後、本当に敬意を払いたくなったよ」

サカモト
「ここ十年くらいの間、韓国でビジネスモデルになっている【インディーズとブロックバスターの折衷】スタイルの作品ですが、今どきの韓国で、こういう勇気ある作品が劇場公開できたことは、ちょっと嬉しかったですね」

サイゴウ
「でも、作る側も演じる側も、リスキーだったと思うよ。李明博政権時代だったら、圧力かけられて公開が危ぶまれてもおかしくない内容だろう。韓国が表向き、対外的に【無い】ことにしている問題を、【これでもか!】というくらい、ドロドロに見せつけてくれる」

サカモト
「イ・チャンドン監督の『オアシス』が持っていた遺伝子を大きく引き継いだ映画だったと思うのですが、まさか今頃、それが出て来るとは思いませんでしたよ。リスキーであると共に大きな挑戦でもあったと思います」

サイゴウ
「伝統的な田舎の前近代的な風土を背景に、同性愛、未成年者虐待、外国人の不法就労とその搾取、女性管理職への偏見、日和見な男性優位主義、おまけにアル中問題まで、お国自慢ばかりしている尊大な愛国者連中とって、外国人に観て欲しくない都合の悪い要素が、みっしりと詰まっている。韓国映画が投資側優先の【ウェルメイド・スタイル=ポップコーン・ムービー】が主流になって久しいけど、この『私の少女』は、まるでそれに対抗する【反撃】とも言えそうな作品だ」

サカモト
「それだからこそ、海外で高く評価されたとも言えますけどね。観る側に媚びてない分、とても率直ですし、テーマに溺れず、映画的に洗練されていた点も非常に良かったと思います。そこら辺が、この手の【問題提起物】の先発組たるイ・チャンドンやキム・ギドクとは異なる、【今=洗練さ】を感じさせます」

サイゴウ
「美しく清いだけの【韓国の虚像】に憧れるのは、今じゃ、一部お花畑系の人たちばかり。見た目をいくら繕ってもダメなものはダメなんだから、逆に『私の少女』のように、韓国社会の問題を韓国人自身が正直に吐露した作品の方が、第三者は共感してくれると思うんだけどな」

サカモト
「かつて、『オアシス』が海外では評価され、韓国内でヒットしても世論的には毛嫌いされたことと、似たような構図かもしれませんね。考えてみれば、日本でやたらと崇め祀られているキム・ギドク作品だって、似たような立場かもしれません」

サイゴウ
「でも、今回のチョン・ジュリ監督に限らず、最近の韓国は新人レベルがやたら高いので、別の意味で困っちゃう作品でもあったな。【こんなに優れた人材がキャパシティが激狭でゴリゴリに保守的な韓国市場に、次々登場してどうするの?】みたいな…」

サカモト
「いくら優れた人たちが大勢デビューしても、韓国のブロックバスター系作品で資質が活かせるかと問えば、やはり、それは今も難しいでしょうからね。韓国の観客も昔に比べれば、作品性や作家性で映画を選ぶようになって来てはいますが、狭い市場の中で産業として回すには、どうしても作品を【似非ハリウッド・スタイル】に特化して作らざるをえない、という事情は変わらないと思うからです。だから韓国映画界は、政治的な手腕でも優秀じゃないと生き残れないし、それゆえ、知恵を絞った結果として『私の少女』のような折衷系のスタイルも生まれる訳なのですけど…ですから、『私の少女』もまた、韓国映画界イノベーションへの導火線になるかと言えば、それも疑問だったりします。そういう意味では、韓国映画の徒花になる可能性が高い【もったいない作品】かもしれません」

サイゴウ
「結局、いくら優秀なクリエイターでも、一旦ロートルのレッテル貼られちゃうと現場から外されて、TVドラマの方か学校で教える側に流れちゃう、というルートになってしまっているよな。日本の業界も似たようなモンだけど、韓国は引退が早過ぎるし、それがリソースの無駄な消耗にしか見えなかったりする。だから、『私の少女』のような作品が出ても、素直に喜べない」

サカモト
「『私の少女』の場合、ペ・ドゥナとキム・セロンがタイトロールを張っていたところに、この【人材の無駄使い】という韓国映画業界の大きな問題が何気で浮かび出ていたのではないでしょうか?あえて嫌な言い方をしますけど、ペ・ドゥナは【韓国映画業界から捨てられていた女優】であり、キム・セロンは【これから捨てられるだろう女優】とも言えるからで、彼らを再度見出すことが出来たのも、結局は『私の少女』が韓国の主流から外れた作品だったから、とも言えると思うのですよ」

サイゴウ
「でも、一応有名なスターではある二人が、こういう作品に出演することを承諾した裏側に、韓国の芸能人、特に俳優を取り巻く状況が変わってきているのでは?という解釈もできる。【女優は25才過ぎれば用済み、子役は中学生になればオシマイ】という法則が相変わらずでも、【ルックスや年齢を超えて、資質のある俳優を長い目で育て積極的に使って行こう】という抵抗的な風潮が、地味ながらも動き出しているんじゃないだろうか?俳優側にとっても仕事が好きならば、こうしたムーブメントは結果的に彼らの得になるだろうしな」

サカモト
「そこら辺の微妙な変化は、韓国で低予算インディーズ作品が数多く作られ、一部作品がそれなりに評価されるようになった故の効能かもしれませんね。そして韓国映画が海外で盛んに紹介されるようになった影響も、かなり大きいでしょうし…」

サイゴウ
「特にペ・ドゥナに対する評価はそうかもな。【海外で評価され、韓国に逆輸入】という代表例かもしれない。でも、それって、あんまりいいことじゃないと思うし、哀しいことでもあるんだけどな。デビュー当時は、あんなに韓国内でもてはやされた彼女が、こういう歪んだキャリアを歩むことになるなんて、全く想像出来なかったよ」

サカモト
「日本の山下敦弘監督や是枝裕和監督の作品がペ・ドゥナ再評価の嚆矢になったとすれば、日本人として誇らしくはありますけどね。日本での彼女の登板は、ちょっと遅すぎた感がありましたけど…」

サイゴウ
「ペ・ドゥナのデビュー当時、彼女をスクリーンで初めて観た際、【韓国よりも日本の方が成功しそうな女優だなぁ~】なんて思ったけど、当時そんなことを言っても誰も理解してくれなかったもんな」

サカモト
「今回の『私の少女』に出演したことで、今後韓国映画において、より真っ当な女優として歩むようになれば、本当に嬉しいです。本当の勝負は40歳過ぎてからだと信じたい」

サイゴウ
「実際、贔屓目を別にしても、この『私の少女』におけるペ・ドゥナの演技は彼女自身にとってエポックになると思う。韓国の一般客からすれば違和感ありありの【ヘンな役】かも知れないし、おしゃれすぎ、綺麗過ぎで、ちょっと浮いている気もするんだけど、老けたことを隠さない演出が、ペ・ドゥナ演じるキャラクターに見事な深みを与えていたと思う」

サカモト
「時折見せる、疲れた【オバサン顔】に、メイクではカバーできない【老化】という現実がはっきり出ているのですけど、それがヨンナムという複雑なキャラクターの二面性の象徴にもなっていたりします」

サイゴウ
「ヨンナムがトヒに対する性的虐待容疑で逮捕され、仲間の刑事から尋問される辺りの演技は特に素晴らしかったな。彼女は陰湿で執拗な誘導尋問に対して何も語らず、疲れた表情で俯いているだけなんだけど、そこに、この『私の少女』のテーマが見事に体現されていたと思うよ。【ペ・ドゥナは、ここまで出来る女優になったんだ】という感慨もあって泣けたよ」

サカモト
「キム・セロンは想定内の演技ですけど、彼女じゃなければ、ここまでできなかっただろう、みたいな印象も、もちろん率直に感じました。彼女が酒乱だったことが判明するシーンは、その白眉でしょうね。彼女もまた、子役というには微妙な年齢ですけど、トヒというキャラを演じたことについては彼女のマイルストーンになるでしょう」

サイゴウ
「トヒが酒乱だったのは驚かされたよな」

サカモト
「トヒと言えば、彼女のしょうもない父親演じたソン・セビョクも相変わらずいいです。今回も今まで以上に【あのソン・セビョク!?】みたいな驚きがありました」

サイゴウ
「ホント、彼は何をやらせても【+α】のある俳優だよな。今ではすっかりメジャーな存在になってしまったけど、これからも演劇と低予算インディーズ系の仕事は続けて欲しい」

サカモト
「トヒの祖母演じたキム・ジングも相当インパクトがありました」

サイゴウ
「演出側の手腕かもしれないけど、彼女が三輪バイクでトヒを追いかけ回すロングのワンショットだとか、海に落ちて死んでいるシーンなんかは素晴らしいものがあった。出番こそ少ないけど、キム・ジングの凶悪婆さんぶりには是非注目して観て欲しい」

サカモト
「エンタティメントとしても、この『私の少女』は非常に面白い映画になっていたと思います。ハードボイルド・サスペンスとして観ても十分出来がいい」

サイゴウ
「ネタ自体は早々に割れちゃうけど、意図的にそういう話の運びだったし、それがあったからこそ、俳優たちのハードボイルドぶりも冴えたと思う。まあ、オレ的にはヨンナムが逮捕されてからの、くどくて説教臭い展開をどうにかして欲しかったんだけど、あれがあったからこそ、ペ・ドゥナの存在が際立ったとも言えるし…」

サカモト
「まさに絵に描いたような問題作なので、それがあざと過ぎる感もあって、【傑作!】とは言い難い部分もあるのですが、2000年以降に製作された韓国映画の中では後世に残る名作になりうる作品かもしれませんね」

サイゴウ
「今後、ペ・ドゥナにしてもキム・セロンにしても、チョン・ジュリ監督にしても、彼らのキャリアに良くも悪くも影響を与えそうな作品だとは言えるだろうな」

サカモト
「でも、この秀作の登場が、さらなる韓国映画の二極化、そして一部クリエイターの【キム・ギドク化】や出演者の【ペ・ドゥナ化】を一層招くきっかけにならないことも祈りたいと思います」

サイゴウ
「そういう意味では作品の評価とは別な【憂い】を残す作品だったかもしれないな」




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『群盗』(2014)★★ [韓国映画]

原題
『군도:민란의 시대』
(2014)
★★
(韓国一般公開 2014年7月23日)

英語題名
『KUNDO : Age of the Rampant』

日本語訳題名
『群盗:民乱の時代』

日本公開時題名
『群盗』
(日本公開 2015年4月15日)

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(STORY)
日本が開国に向けて大きく揺れていた1860年代。
第二十五代国王・哲宗が統治する朝鮮では、官僚と貴族たちが勝手気ままに権力を振るい、政治腐敗が頂点に達しようとしていた。
天災が重なり飢餓が蔓延し、野は民衆の屍に溢れ、彼らの一部は生き残るために野盗へ降って行く。

「智里山・チュソル」も、そんな野盗団の一つだったが、極めて組織化されていて、一党を率いるテンジュ(=イ・ギョンミョン)、チョンボ(=マ・ドンソク)、イ・テギ(=チョ・チンウン)、マヒャン(=ユ・ジヒョン)ら卓越した技術を持つ幹部たち指揮の元、庶民を搾取する役人や貴族の悪事を暴くと共に、彼らから奪った物資を民衆に分け与えていた。

一方、三南一帯(※)を統治する若き大富豪の両班ジュヨン(=カン・ドンウォン)と捕盗庁のソン・ヨンギル(=チュ・ジンモ)ら為政者にとって、「智里山・チュソル」は目障りな邪魔者だ。
が、ジュヨン自身が民衆を弾圧、搾取する悪の元締めであり、悪人としても只者ではなかった。
(※)忠清道、全羅南道、慶尚道一帯を指す

彼は文武に秀でているばかりではなく、幼い頃から冷酷非道、謀略に長け、家督を略奪する野望を持ち、非嫡子であったことから実父のチョ・ウォンスク(=ソン・ヨンジャン)を陰謀で引退に追い込み、二十二歳の若さで今の地位を手にしていた。

ジュヨンはある日、街の愚鈍な肉屋トルムチ(=ハ・ジョンウ)に目をつけ、屋敷に呼びつける。
そこでトルムチが依頼されたのは、山寺に匿われたある人物の殺害だった。

大金に目が眩み、嫌々ながらも山寺に潜入するトルムチだったが、相手が乳飲み子を抱えた若い女性チョンシム(=キム・コッピ)だったことに驚き、暗殺に失敗、彼女を匿っていたテンジュたちに捕まって制裁を受ける。

だが、命かながら街に戻ったトルムチを待っていたのは、さらなる悲劇だった。
口封じのためにジュヨンの手下に寝込みを襲われ、家に火を放たれる。
大やけどを負いながら、なんとか生き残ったトルムチだったが、母親(=キム・ヘソク)と妹コクチ(=ハン・イェリ)は焼死してしまう。

その彼を拾い上げて救ったのは、あの「智里山・チュソル」一行だった。
ジュヨンへ復讐するために彼らの仲間になることを誓ったトルムチは、課せられた激しい修行を耐えぬき、巨大な肉切り包丁を二つ腰に差した「トチ」(※)として生まれ変わる。
(※)「도치」=見た目が劇中のキャラにクリソツな淡水魚を指すと思われる

強大な戦闘力を得たトルムチは、激情に駆られてジュヨンの屋敷に独り乗り込むが、あっという間にやられてしまう。

そして彼が生死の境をさまよっている間、ジュヨンと捕盗庁の「智里山・チュソル」大掃討作戦が始まった。

急襲された智里山中の隠れ里は、女子供までが皆殺しの対象となり、生きて捕らえられた者たちは、見せしめとして街中で吊るされる。

昏睡から目覚めたトルムチは、野盗仲間の多くが殺されるか、捕らえられ、絶望的な状況にあることを知り、彼らを救うべく、ガトリング砲を携えて、たった独りの殴り込み作戦を敢行する。
サカモト
「この作品、前評判は悪くなく、公開当初の客入りも良かったのですけど、遅れて公開された『鳴梁』に合わせて、韓国最大の某配給チェーンからは一斉に閉めだされてしまったという、ちょっと可哀想な作品です(※)」
(※)それでも観客動員数は約470万人なので、『鳴梁』と並列して同じ劇場チェーンに掛かっていれば、優に500万人は超えたと思われる

サイゴウ
「それって、韓国の映画興行ではよくあることなんだけど、やっぱりこういう事態を目の当たりにすると気分が悪いよな。【製作=配給】として、劇場チェーンを持っているかいないかで、ヒットしていても配給網から蹴りだされちゃうという、嫌な例だな」

サカモト
「映画も商品なので仕方ない部分はあるのですけど、同じ時期に公開されたメチャクチャな大バカ時代劇『해적: 바다로 간 산적 (海賊:海を往く山賊/邦題:パイレーツ)』が細々ながらも『鳴梁』と同じチェーンで平行して掛かっていましたから、おそらく大手同士でなんらかのバーターがあったのだろうと想像しちゃいます」

サイゴウ
「そこには政治絡みの判断もあったんじゃないかな?『群盗』と『鳴梁』に共通しているのは、どちらも朝鮮王朝はいかにダメで、一般民衆がそのとばっちりを受けていたことを背景にした物語、ってことなんだけど、それを現政権への暗喩だと解釈すれば、『群盗』の方が圧倒的に【リアル現政権批判度】が高いから、劇場プログラム編成に影響力を持ったお偉いさん方が、行政と世論を考慮した可能性もあり得る。その点、『해적: 바다로 간 산적 (海賊:海を往く山賊/邦題:パイレーツ)』は【とんまで稚拙なファンタジー】ってことで、言い訳と誤魔化しの効く映画だったからな」

サカモト
「それに、『鳴梁』の方は国家認定のスーパーヒーロー、李舜臣が主人公で、敵もこれまた国家認定の敵国【ニッポン】ですからね、いくらでも正当化できる訳です。でも、『群盗』の方は、社会から外れた貧乏アウトローたちが、同じ民族の金持ち為政者に牙を向ける内容。穿って見れば、今の韓国で大衆の多様化を望まない保守派連中にとって、『群盗』は極めて気に入らない内容でしょう」

サイゴウ
「それに『群盗』って、おおよそ1860年代を舞台にしているんだけど、同じ頃の日本と比較すると雲泥以上の差、幕末時代というより『羅生門』の世界だから、これまた外国への体裁ばかりを気にする連中からすれば、面白くないこと、この上ない」

サカモト
「明治時代に当時の朝鮮を訪れた日本の使節が【まるで1000年前の日本のようだ】と言ったとか言わないとか。その言葉が本当かどうかは別にしても、それを裏付けてしまうような描写の連続ですからね」

サイゴウ
「基本的にはフィクションだから、この映画で描かれている当時の光景を真実であると信じてはいけないんだけど、それでも、韓国人による自国批判の強い内容とも言えるだろうな。もっとも、そこまで思い至った韓国の観客はほとんどいないだろうけどな。毎度の事だけどさ…」

サカモト
「そこら辺の民族自己批判的なメッセージが、果たしてこの映画に含まれていたかどうかは、ちょっと監督兼原案のユン・ジョンビンに尋ねてみたい気もしますね」

サイゴウ
「でも、それはちょっと疑問かも。なぜなら映画を観れば一目瞭然のことなんだけど、この『群盗』の大きなテーマの一つは、韓国というか朝鮮の風土でいかに【正統派マカロニ・ウェスタンを再構築出来るか?】ってことだったと思うからだ。その可能性を探ったら、たまたま哲宗の時代(※)だった、ってことなんじゃないか?」
(※)1849年~1863年に在位した李氏朝鮮王朝第二十五代国王、哲宗の時代。

サカモト
「そういえば、映像からはセルジオ・レオーネへのリスペクトを非常に感じましたね。『荒野の用心棒』だとか『夕陽のガンマン』だとか…時代背景も、それらの作品群に割りと近いのではないでしょうか」

サイゴウ
「有名なマカロニ・ウェスタンの時代背景を調べたら、ほぼ哲宗在位の時期と重なっちゃった、ってことかもよ」

サカモト
「主人公たちが馬を駆って夕焼けの荒野を走り抜けるシーンだとか、一般民衆がボロボロで搾取されっ放しだとか、マカロニ・ウェスタン好きの人なら、【どこかで観たような??】というデジャブに捉えられるシーンが続出します。でも、ここまでやれば、逆に映画として納得ですけどね」

サイゴウ
「トルムチが特製の二本包丁を両腰にぶら下げていたり、最後はガトリング砲がオチに使われたりと、むしろ純粋かつ真面目なパロディとして楽しんだ方がいいと思う。キム・ジウンが鳴物入りで撮った『グッド・バッド・ウィアード(좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈)』なんかより、遥かにマカロニ・ウェスタンの本質を突いていたんじゃないのか?」

サカモト
「でも、ユン・ジョンビン監督が一躍名を成した『용서받지 못한 자(許されざる者)』を思い出すと、『群盗』は内容があまりにかけ離れているので、そこに歳月を感じて嫌になりましたよ」

サイゴウ
「でも、商業監督として軌道に乗った今の彼って、どちらかと言えばベタな映画ファン的作品が目立つから、本来は『群盗』のようなエンタティメント志向だったんじゃないのかな?でも、根っ子は社会派だと思うよ」

サカモト
「ところで、娯楽映画として割り切った場合、いかがでしたか?上映時間が長い上に、話にひねりがないので、正直、私は観ていてシンドかったのですが…」

サイゴウ
「ハ・ジョンウにカン・ドンウォンという、ラスボス的な強烈タイトロールを揃えたけど、基本は群像劇。そう考えると、まとまりが悪くて、尺の割りには中身が薄い感があった。技術的にはかなり優れているんだけどね。意図的なステレオ・タイプにしたであろう各キャラクター群も、劇中で、きちんと機能していない印象もある」

サカモト
「もっと、焦点がトルムチとジュヨンの対決方向へ絞れていれば…とは思いましたね。でも、そこまで行く前の段階で、イ・ギニョンやマ・ドンソクらが主演二人を差し置いてダラダラと大暴れしてしまうので、広げすぎた風呂敷を収拾できないまま、無理矢理に話を終わらせてしまった感じがします」

サイゴウ
「脇役の描き方が片手落ちになってしまったので、結果的にそれに引きづられてトルムチとジュヨンの存在も中途半端になってしまったよな。個性的なキャラクターを沢山出しているように見えても、分解して考えると凡庸で大したことがなかったりする。どうせなら、もう少し変な個性や見た目の誇張があってもよかったんじゃないだろうか。ハ・ジョンウとカン・ドンウォン自身は好演だったので、もったいない」

サカモト
「ハン・イェリやキム・コッピもせっかく出ているのですから、彼女たちに、もっと重要な役を振るべきだったと思いますし…」

サイゴウ
「女優の扱いは総じてイマイチ、いやイマサンかな。ユン・ジョンビン監督は女優の扱いが苦手なのかもしれない。一貫して【野郎の世界】を描いて来たからかな?」

サカモト
「世界観もビジュアルにお金が掛かっている割にはローカル過ぎるので、一見派手に見えても結果的にはショボい、という印象です」

サイゴウ
「まあ、この『群盗』という作品は、秀作とも傑作とも言えず、あくまでも【一時の話題作】って感じしかなかったんだけど、朝鮮王朝ネタを話の中心から外し、地方で暮らす底辺の人たちをヒーローとして描いたという点では、異色の韓国式時代劇だったは言えるかもな」

サカモト
「内容をやたらてんこ盛りにせず、もっと絞って描いていれば、【朝鮮式ウェスタン】として、より純化された好編になっていたのではないでしょうか?尺もやっぱり二時間以内に収めて欲しかったですね」

サイゴウ
「どうせ長いなら、思い切って四時間に越えにしちゃうとかな。それが出来れば、案外、名作になっていた気がしないでもない」

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『海にかかる霧』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『해무』
(2014)
★★★+1/2★
(韓国一般公開 2014年8月13日)

日本語訳題名
『海霧』

日本公開時題名
『海にかかる霧』
(日本一般公開 2015年4月17日)

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(STORY)
時は1990年代後半。

麗水の港で漁船長として働くカン・チョルス(=キム・ユンソク)は一時期やり手として大きな収入を得ていた。

ベテラン機関士ワノ(=ムン・ソングン)や甲板長ホヨン(=キム・サンホ)らとチームを組み、他のクルーたちの信頼も厚く、金払いも誠実だ。
危機にも冷静に対処し、毎日堅実に仕事をこなしている。

だが、実生活は妻(=パク・ムヨン)との生活が破綻しており、生業もまた、時代の流れから廃業危機に追いやられていた。

そんな四面楚歌の中、漁労幹部(=チョン・インギ)から、黄海沖で中国朝鮮族密航者を船に載せ替え、韓国で降ろすという、違法な仕事を持ちかけられる。
途中、海洋警察の検問を突破すれば後は簡単だ。

やむにやまれずチョルスはそれを引き受け、クルーたちを招集するが、新人のトンシク(=パク・ユチョン)ら、下の人間には、密航事業のことは知らされていなかった。

荒れる夜の海上で密航者たちを載せ替えたチョルスだったが、中国人たちは待遇に不平不満を募らせる。
彼らもまた、それぞれが複雑な事情を背負っていたが、チョルスは暴力で密航者たちの主導権を握る。

雨ざらしの甲板上で粗末な食事だけを与えられ、トイレもままならない状況で、凍えながら眠る朝鮮族一行の中に、トンシクは一人の若い女性、ホンメ(=ハン・イェリ)がいることに気づき、心ひかれてしまう。
そして、他のクルーに黙って、彼女を機関室に匿うのだった。

夜が明け、海洋警察の検問が入ったことから、チョルスらは中国人一行を冷凍倉庫に隔離してやり過ごそうとする。

船に乗り込んできたキム係長(=ユン・ジェムン)に札束を渡して、その場は事なきを得るが、ガス漏れが原因で、密閉した倉庫内の密航者のほとんどは死んでいることが発覚する。

一瞬、パニックに陥りかけるクルーだったが、チョルスは冷酷に生き残りを殺害すると、証拠隠滅を命じる。
身元の分かる書類を全て焼き、遺体は手足を切り落として海に遺棄するのだ。

それを目撃したトンシクは、ホンメをクルーから必死で守ろうとするが…

海上で起こった知られざる惨劇。
それを軸に繰り広げられる壮絶なサバイバルと人間の業。
サイゴウ
「題名聞いた時、【もしかして、『ミスト』(※)の韓国版か?】なんて勝手に想像したんだけど、ホラーじゃなくてガチの人間ドラマだった」
(※)2007年の名作『The Mist』のこと

サカモト
「でも、【人間ドラマ】といってもハードゴア系のお話ですし、一種のサバイバル・サスペンス。凄惨な物語ながらも豊かな情緒が裏側に濃く流れているので結構泣かせてくれました」

サイゴウ
「2014年の夏は『鳴梁』が【右へ倣え!】の大バカヒットしたお陰で、ろくな作品が劇場に掛からなかった。いや、いや、大手が掛けてくれなかったヒドイ状態だったんだけど、まるで事故のように、この『海霧』が上映されたので、ちょっとだけ救われた」

サカモト
「『鳴梁』以外も似たような時代劇がシネコンを占領していましたし。あれには本当うんざりしましたよ。夏なのにラブやコメディが一本も無かったのは珍しいです」

サイゴウ
「でも、ここ数年の傾向として【ラブやコメディ】自体が以前よりもマーケットで受けなくなっているような気がするけどな。マンネリだから仕方ないけど」

サカモト
「でも、この『海霧』はラブストーリーでもあったと思いますよ。甘い欠片はなく、観ている人が安易に自己陶酔出来るような内容ではありませんけど…」

サイゴウ
「でも、そのシビアさ故、単なるハードゴア系人間ドラマを超えることができたと言えるかもしれないな。もし、パク・ユチョン演じるトンシクとハン・イェリ演じるホンメの刹那的な愛が描かれなかったら、おっさん同士の凄惨な漁船上バトルで終わっていたかもしれない。それはそれで面白いとは思うんだけど、マニアックな野郎向け映画に見せつつも繊細なラブ・ストーリーに濃い人間ドラマ、そして強い社会的なテーマが丁度いいバランスで映画の中に織り込まれている。古臭いパターンに沿った固い印象も受けたし、納得出来ない点も多々あるけれど、こういう作品が今どきの韓国映画界から出て来たことは、ちょっと珍事かもしれない」

サカモト
「おそらく、こういう作品はどんどん減ってゆくのでしょうね」

サイゴウ
「この映画もブロックバスターとインディーズの間を狙ったスタイルなんだけど、よくある貧乏インディーズ枠だったら、いくらシナリオや演出が良くても、【ここまで出来たかな?】みたいな印象はあったな。この手の韓国映画としては撮影や美術が凝っていて仕上がりも非常にいいから、決してお安い作品ではない」

サカモト
「堅実で演出側の管理が一貫して効いている印象がある映画でしたね。各カットの繋がり方やリズムも丁寧で、韓国のブロックバスター系によくある【土壇場のご都合編集で作品はメチャクチャ!】みたいな気配が感じられませんでした。ちょっと昔の日本映画に通じる端正さも感じさせます」

サイゴウ
「シンプルだけど観る側の予想を意外と超える展開だ。こういう話を面白くみせることって、かなり難しいと思うよ。生半可なホラーかサスペンスになっちゃうのがせいぜい、といった感じなんだけど、そうならない。そこら辺は1970年代のアメリカ映画みたいな雰囲気も感じさせた」

サカモト
「映画の出来が悪いかを判断する指標の一つに【何気ない日常生活をどれだけ丁寧に細かく描けるか】ということがあると思うのですけど、この『海にかかる霧』も出だしは漁船での生活描写を丁寧にスケッチしてゆくところから始まります。長過ぎるように見えるかもしれませんけど、私は【これは当たりかもしれない】って、直感しましたよ」

サイゴウ
「淡々と漁船で働く様子を描いているだけなんだけど、製作チームの技量がよくわかるし、この冗長さこそ、映画における伏線になっている」

サカモト
「でも、この映画のサスペンスとしての【盛り上がり部分】って、全体の中では決して多くありません。基本的には【食い詰めた船長が密入国に手を出して、取り返しのつかない失敗をしでかして、じゃあ、どうするか?】という話なんですけど、その【~じゃあ、どうするか?】までが、ゆっくりと淡々と描かれます。それだけ観ていると【なーんだ、また差別と格差問題を描いた話か】とも思ってしまうのですけど、いきなり急展開して予想しない方向に突っ走り始める。そこに大きなインパクトが生まれたのは、やはり中盤くらいまで続く牧歌的な描写があったからだと思うのです」

サイゴウ
「乗員同士の凄惨なサバイバル戦が始まるまではトロい展開だよな。でも、その【トロい展開】の合間に登場人物たちを、ちゃんと描いているから悲惨でも最後は余韻が残る」

サカモト
「登場人物はキム・ユンソク演じるチョルス船長以下、決して悲惨な人生を送っている訳ではないのですけど、極めて限定された刹那的な暮らしを繰り返しながら老いてゆくという【ゆでガエル的な人生】がそこにはあったと思います。そして皆、基本的には【純朴で生真面目】というところが悲劇性を高めています」

サイゴウ
「ムン・ソングン演じるワノ機関長は、その【ゆでガエル人生】の象徴とも言えるし、新人のトンシクはワノの過去を暗喩している存在とも解釈できるキャラクター。逆に中堅のチャンオクはトンシク自身の近未来像とも言えるから、舞台となる漁船の上に一個人の人生を分解して並べたともいえるんじゃないかな?そこら辺を押えて、もう一度この映画を観ると更に感無量に陥りそうな気がする」

サカモト
「中国朝鮮族の大量密入国が話の上で重要な鍵になりますが、時代設定を1990年代にしたところには物語へのリアリティー付加以外に今も続く問題提起が込められていたのかな?と思いました(※)」
(※)元ネタになった『第七テチャン号(제7태창호)事件』は2001年9月末に起こったとされている

サイゴウ
「今の韓国、特に都市部はニューカマーの中国人に侵食され過ぎて、みんな、なんとも思わなくなっているのかもしれないけど、1990年代といえば中国人を筆頭に外国人の大量密入国が韓国の社会問題になっていた時代だった。当時は酷い殺人事件も色々起こっていたみたいだから、監督とシナリオを兼任しているシム・ソンボにとっては青春時代の強い想い出が含まれているのかもしれないな」

サカモト
「『海にかかる霧』は原作が実話を元にした戯曲であり、映画化には大御所ポン・ジュノが名前を連ね、監督のシム・ソンボ自身が名作『殺人の追憶(살인의 추억)』のシナリオその他を担当していた、という関係上、どうしても『殺人の追憶(살인의 추억)』との関連性を連想してしまうのですが、そこら辺はいかがでしょうか?」

サイゴウ
「色んな面で近い感性の映画だったとは思うよ。ただ、重要なのは【似ている、似ていない】じゃなくて、両作品とも正統派韓国映画の延長線上にあり、【なんでもかんでもマーケティング第一】のブロックバスター的な姿勢と対照的な位置にある、ということじゃないかな?だから、この映画を観ている最中、韓国映画界のメジャー選手周辺から、現状のビジネス・モデルに対して反旗的な原点回帰への動きが実は起こりつつあるのかも?なんて考えたりした」

サカモト
「実際、インディーズ系では【原点回帰志向】が高まっていると思いますよ。ただ、それが表には出てこない。なぜなら、それを丸出しではプロのクリエイターとして韓国では喰って行けないし、韓国映画界自体が監督その他を使い捨てにすることで【反ブロックバスター志向の作家主義】が萌芽することを抑止しているとも言えるからです。それは昔から韓国映画界では普通の【システム】かもしれず、大御所のカン・ウソクは巧妙にそのシステムの隙間をぬって業界のトップに成り上がった人なのかもしれません。逆に後発組のポン・ジュノやパク・チャヌはそれを利用して【表向きは大衆へ迎合しつつ…】作戦で【アンチブロックバスター系】の聖域を作ろうとしているのではないでしょうか?今回の『海にかかる霧』は、その戦略の一環だったようにも見えるのですが。【ニッチ狙いで作家性を継続できる映画的環境を作り上げる】という…」

サイゴウ
「それはなんとも言えないなぁ…ただ、狭い韓国映画市場が今のように盛り上がって充実してしまったことに対して、一番困惑して危機を感じているのが、ポン・ジュノのような後発の成功組連中なんじゃないか、とは思うよ。そうした韓国映画界のカオスから生まれたのが『海にかかる霧』であり、もう一方が『鳴梁』だった、ということなのかもしれない」

サカモト
「もしかしたら、監督のシム・ソンボにとって本当の【戦い】が始まるのは、【ポン・ジュノ】というビッグネームと決別した時なのかもしれませんね」

サイゴウ
「その時点で業界から抹殺されるか、新たに自分の派閥を作り上げて生き残ることが出来るか、だな。でも、今はそんなことより骨太&正統派の大型新人監督が登場したことの方を歓迎すべきだろう。シム・ソンボの次回作には是非、期待したいね」

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『風景』(2013)★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『풍경』
(2013)
★★+1/2★
(韓国一般公開 2013年12月12日)

英語題名
『Scenery』

日本語訳題名
『風景』

勝手に題名を付けてみました
『夢・異邦人たちの風景』

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(STORY)
韓国で暮らす十四人の外国人たち。
そして、彼らの暮らす街、踏十里、大林洞、梨泰院、仁川…

祖国も職業も、韓国に来た事情も全く異なる人々が語る、それぞれの夢。

端正な映像美に細やかなディテールを織り込んで描く異邦人たちの「韓国」。
 サイゴウ
「チャン・リルこと、チャン・リュのドキュメンタリー作品ということで、想定内の作風ではあったんだけど、意外と大胆で斬新な仕上がりだったことには、ちょっと驚いた」

サカモト
「【韓国で暮らす外国人を通して韓国社会を批判する】といった、ありがちな内容ではなくて、あくまでも現実の事象をそのまま描こうとしているように思えました」

サイゴウ
「ヘンな政治的主張は感じなかったけど、えらく醒めていて唯物論的な感じはしたな。でも、ホン・サンス的な宇宙人視点ではなくて、根っ子には暖かくやさしいものがあった」

サカモト
「ごく普通のことをこれまたごくに切り取っていたように見えるんですけど、実際はかなり作為的に作り込まれていて、撮影には結構時間が掛かったのではないでしょうか?」

サイゴウ
「随所にインサートされる街の風景も相当狙っていたよな。でも、それもまた十分な見所になっていたりする」

サカモト
「登場人物が語る内容は、韓国にいる理由と自身将来の夢についてだけですけど、そのシンプルさがかえって想像を喚起させ、それぞれの生き様を人生を浮き立たせています」

サイゴウ
「【韓国で差別されてイジメられて…】みたいな、よくある問題提起とは全然違っていたりする。インタビューの前後には彼らの何気ない暮らしぶりを丁寧に組み込んでいるから、言葉だけが先走りしないで、それぞれの生活感がとても良くにじみ出ていた。あそこら辺も、ドキュメンタリーとして冴えていたと思う」

サカモト
「ネイティブの韓国人監督だと、もっとあざとくなりそうです」

サイゴウ
「ただ、人物描写も単に撮影しているだけじゃなくて、演出的にかなり作りこんでいたと思うよ。だから、【一体どうやったんだろう?】みたいなカットが続出したりするけど、やらせスレスレだったような気がしないでもなかったけどな」

サカモト
「でも、決して不自然ではありませんし、韓国のドキュメンタリーでは日常茶飯事の手法だとは思いますけどね。仮に半ば演技をさせていたとしても、【日本の是枝裕和もビックリ!】な演出ぶりだったのでは?」

サイゴウ
「チャン・リュって監督は、元々そういう方向の演出をするクリエイターだとは思うんだけど、今回は劇映画やるよりも、その巧みさと独特さが光っていたと思う」

サカモト
「ところどころ登場するソウルの捉え方も見事ですよね。特に朝鮮族の人たちが集う大林洞のくだりは、愛情が込められていて実に感動的でした」

サイゴウ
「あそこら辺は監督が送る、同胞への応援歌でもあったと思うけど、大林洞界隈の空気感が見事だよな。あそこら辺は以前、友達とよく酒を飲みに行った場所なんだけど、当時、オレが肌で感じた感覚が見事に再現されていて、感動しちゃった」

サカモト
「それに皆、出身地に関係なく韓国語が上手いですよね。当然ばらつきはありますけど、韓国語に堪能な外国人がここ二十年くらいの間に急速に増えたことがよく分かります」

サイゴウ
「今じゃ、唯我独尊の欧米人ですら、日本人よりも韓国語を堪能にしゃべるからね。以前だったら想像を絶する変化ぶりだよな」

サカモト
「でも、それは日本で日本語を使う外国人も同じでしょう。今回のような作品を観ていると、国家間のパワーバランスが大きく複雑に変化していることに気付かされます」

サイゴウ
「政治じゃなくて、文化的かつ経済事情がもたらすパワーバランスの変化だな。でも、こういう変化を韓国も日本も、国威啓発や民族主義的な目的で、政治利用して欲しくないとも願うよ」

サカモト
「生粋の韓国人監督が同じテーマで作ると、どうしてもそうなっちゃう可能性大ですけどね…」

サイゴウ
「まあ、チャン・リュ監督が韓国人じゃなかったからこそ出来た、ドキュメンタリーだったのかもしれないな」

サカモト
「ここ十年くらいの韓国における変化や、今のソウルに漂う【リアル】を感じたい人にはいい作品だと思いますよ。【韓流なんたら】の嘘八百ぶりがよく分かるのでは?」

サイゴウ
「でも、【夢】というテーマで在韓外国人に語らせるというやり方って、実は韓国に対する皮肉、アンチテーゼにもなっていたんじゃないのか?この映画で描かれたものの何が現実で、何が嘘かを導き出すのは、やはり観る側の解釈次第、ってとこだろうな。【韓流】がいくら嘘と欺瞞だらけでも、オルタネイティブ的には【現実】という解釈もできるだろうからね」

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『その子犬、その猫』(2013)★★ [韓国映画]

原題
『그 강아지 그 고양이』
(2013)
★★
(韓国一般公開 2013年12月12日)

英語題名
『Cats and Dogs』

日本語訳題名
『その子犬、その猫』

勝手に題名を付けてみました
『私の小犬、あいつの子猫』

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(STORY)
失恋で傷ついたWEBデザイナーのコ・ボウン(=ソン・ミンジ)は、街で出会ったオスの野良犬に一方的に懐かれてしまい、やもなく「ウジュ」と名づけて飼うことになってしまう。
一方、アニメーション・ディレクターのカン・ウジュ(=シン・ミョングン)は公園で偶然拾ったメスの捨て猫を連れて帰り、「ポウン」という名前を付ける。

二人は動物病院で初めて出会うが、チャラいウジュをポウンは相手にしない。
ナンパ心を刺激されたウジュは「ポウン」を抱きながら、「ウジュ」を連れて散歩するポウンの後をストーカーのようにつきまとうようになる。

やがて、ウジュが善人であり、価値観を共有できる男性であることを知ったポウンは、彼に心と体を許すようになり、恋人関係になるが、最終的にその間を取り持ったのは、犬の「ウジュ」と猫の「ポウン」だった。

だが、あるデートの日、些細なことで二人は大喧嘩し、別れてしまう。
そして、それを見越したように、この世を去る愛犬「ウジュ」。

ペット墓地で独り悲しみにくれていたポウンだったが、そこではたまた、ウジュと再会する。
なんと!彼の愛猫「ポウン」もまた、二人が別れた後、天に召されていたのであった。

傷心のポウンは郊外の動物保護施設で働くようになるが、犬への愛を断ち切れず、再び飼い始める。

ウジュも二度と猫を飼わないことを誓っていたが、知人に別の猫を押し付けられてしまう。
早速、その猫を公園へ捨てに行くが、そこで犬を連れた女性と知り合い、捨てようとした猫をダシにしてナンパを始める。

そんな彼の橫を、新しい彼氏と犬を連れたボウンが幸せそうに通りすぎてゆく…
サカモト
「韓国映画には珍しい、とても乙女チックな感性の作品でしたね」

サイゴウ
「どことなく日本映画の影響を強く感じるけど、そんな野暮を言っても意味ないな」

サカモト
「世界観は日本の恋愛映画風、語り口が北野武風ですか」

サイゴウ
「それはともかく、題名通りに犬と猫が重要な役割を担っているのが、インディーズであっても韓国映画として異色だろう」

サカモト
「動物を使って客入りを狙う類いは日本でよく見かけますが、韓国映画では稀ですよね。ブロック・バスター系ですと、『マウミ』シリーズや、『ブラインド』くらいしか、思いつきません」

サイゴウ
「韓国映画界には【動物を主人公にするとコケちゃう】というジンクスがあるらしい。『ミスターGO!』なんて、それを地で行っちゃったよな。それに、社会の風潮というか慣習というか、韓国では犬猫や動物を映画の中心に据えることがタブーっぽいところがある。【畜生と人間様を同列に扱うなんてけしからん!】みたいな…」

サカモト
「映画のタイトルに使われている【강아지(子犬)】という言葉がネガティブ・ワードだったりするくらいですからね」

サイゴウ
「【犬】という言葉自体が悪口の基本単語だよな。愛猫家にしても近頃はだいぶ増えてきたけど、まだまだ少数派。もっとも、最近は猫を飼うことが、ちょっとした【反逆的おしゃれ】の記号だったりするけどな」

サカモト
「【自分は猫を飼っているから、他とは違うぞ!】みたいな感じですか。そういう韓国の風潮から鑑みれば、この映画は貧乏インディーズならではの企画だったと言えるかもしれませんね」

サイゴウ
「大予算ブロック・バスター系の企画では、まず通らないネタだろう。何よりも【オレ様天狗】のスター連中が嫌がって出そうにない。【犬や猫と同じに扱うのか!けしからん!】みたいな感じになっちゃいそうだ」

サカモト
「今回の映画は大した出来映えではありませんし、安っぽい仕上がりですけど、端正に作られているので、意外とカルト的にハマる人がいたかもしれませんね」

サイゴウ
「カット割りや編集はガチガチなくらい丁寧だよな。あと三歩くらい突き詰めれば一つの映画的スタイルになりそうな気配は感じた。ただ、その端正さや几帳面さに狂気は感じられないので、カルト化までは難しいだろう」

サカモト
「劇中、アニメーションを多用しているところも、今のインディーズ系らしい作品です」

サイゴウ
「思うに、この映画は実写部分についても、事前に絵コンテで検討して、出来る限りそれを再現する方向で撮影に臨んだじゃないかな?全体的にあんまり無駄な部分を感じなかった。それもまた、日本映画風になった理由だろう」

サカモト
「お話そのものは、凡庸な若者を描いた、つまらない恋愛ドラマですが、観ていて分かりやすいし、サラッとした心地よさがあります。ですから、韓国式ベタ系が嫌いな人には受け入れやすいかもしれません」

サイゴウ
「【ハマる、ハマらない】で言えば、日本人の方がハマり易い映画かもな。韓国では、へそ曲がり系オシャレ女子が好みそうな映画だけど、シネコンを無目的にウロついているような客や、カップルには絶対ウケナイと思う」

サカモト
「低予算作品ですから、登場する犬や猫がみんな【生】、CGIで無理やり加工してキャラクター化していないのですが、それなりの演技をきちんとしているように見えたのは、ちょっと驚きでした」

サイゴウ
「劇中、ちゃんと人とコミュニケーションとっているように見えたもんな。特に犬のウジュは餌で釣っているんじゃなくて、本当にヒロインを慕っているようにしか見えなかった。猫のポウンは表情に乏しいけど、動きは不自然じゃなかったし…」

サカモト
「犬猫に恵まれただけかもしれませんけど、演出側には、動物の特性がよく分かっていたんじゃないでしょうか。総じてヘンに擬人化していないのがいいです」

サイゴウ
「物語の中における犬猫の立ち位置だとか、行動特性の捉え方は優れていたと思うよ。監督が本当に動物好きなんだろう」

サカモト
「一見、主人公二人が何を生業にしているのかさっぱり分からなくて、やがてウジュがアニメーション監督、ボウンはWEBクリエイターであることが明らかになる訳ですけど、そういった設定には、作り手側の実生活が反映していたんじゃないでしょうか?」

サイゴウ
「実体験、実生活に基づいて作られた【私的映画】という趣は強いよな。貧乏インディーズじゃ、よくあるネタだけど…ただ、主人公二人が結構いい生活しているのは、なんか不自然」

サカモト
「でも、そういった生活感の無さも、独特の世界観を描く上での狙いだったように思いますし、独特のスタイルを作っていたと思いますけどね。キムチや焼酎、サムギョプサルの臭いが漂うような、貧乏臭い韓国的イメージを拒絶していたのではないでしょうか?」

サイゴウ
「どこかフワフワしていて現実感に乏しい世界観こそ、この映画のいいところだったのかもしれないけどな。ちょっと脆くて危うい気もしたけど…」

サカモト
「カルト映画になり損なった、という感じですか」

サイゴウ
「好きで作った趣味のインディーズ映画、って感じかな?」

サカモト
「とりあえず、日本でも、犬猫好きには共感できる部分が多いかと。まずは【韓国】に対する固定観念や偏見を忘れて観た方が楽しめる作品でしょうね」
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『ING闘技』(2013)★ [韓国映画]

原題
『잉투기』
(2013)
(韓国一般公開 2013年11月14日)

英語題名
『INGtoogi: The Battle of Surpluses』

日本語訳題名
『ING闘技(イントゥーギ)』

勝手に題名を付けてみました
『その名はING闘技』

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(STORY)
29歳になるテシク(=イム・テグ)は軍退役後、定職につかず、家に引き篭ってネットゲームにのめり込む日々を送っている。
それなりにゲーマーとしてネット上で知られた彼にとって唯一社会の窓口はネット・コミュニティだけだった。

ある日、オンライン上の中傷誹謗合戦で知りあった人物とヴァーチャル・キャラクターの売買取引をすることになったが、それは悪質な罠だった。
待ち合わせの公園でテシクは突然巨漢に襲われて、ひどい怪我を負い、一方的に痛めつけられる姿をネット上で晒されて、それがトラウマになってしまう。

テシクは屈辱を晴らすべく、ヒョンオク社長(=キム・チュンベ)が経営する「ING闘技」道場に先輩のヘジュン(=クォン・ユル)と共に入門し、犯人を探し始める。

「ING闘技」道場には社長の娘で高校生のヨンジャ(=リュ・ヘヨン)も通っていたが、そのチャラけた見た目とは違い、総合格闘技の全国女子高生部門の準優勝者だ。
だが、ヘヨンも現実生活がうまく行かず、ネットだけが唯一注目されて主人公になれる世界だった。

現実とバーチャルの二重世界に生きるテシクとヨンジャは一緒に犯人を探し出し、正体を突き止めることに成功するが、加害者もまた、テシクやヨンジャと同じ境遇の悲しい若者に過ぎなかった。
やがて、加害者の青年が自殺したことをテシクは知らされるが…

実際に韓国で起きたオンライン喧嘩中継事件を基に描く、「自称:インターネット先進国」の深い闇。
サイゴウ
「強引にまとめちゃうと、韓国のインターネット文化が、どれだけ若い人たちを蝕んでいるか、その尊い時間を奪っているかを描いた映画だな、こりゃ。オレはネットゲームだとか、ネットコミュニティに関わることを日頃避けているから、イマイチ実感できないんだけど、韓国の若者には切実な物語なんだろう」

サカモト
「【잉투기】って、なんのことかと思ったら、【ING闘技】という造語だったんですけど、映画のために作られた言葉ではなくて、実際起こった事件で使われた単語らしいです。その時、喧嘩の実況中継で掲示されたオンライン・タイトルが【잉투기】。韓国らしいネタですが、なんとも気持ち悪い話ですね」

サイゴウ
「だけど、韓国には、そういう事件が起こる土壌がかなり前からあったよな。ネット依存症はひどいし、K-1なんかの総合格闘技人気に煽られた暴力事件が社会問題になった位だ。だから、この映画で描かれたような不愉快な事件が起こっても不自然じゃない」

サカモト
「ネット依存症とはまた別の話ですけど、格闘技ジムも巷にかなり増えましたよね。国民的人気のあったボクシングはマイナーになってしまいましたけど…」

サイゴウ
「日本じゃ、韓国の格闘技と言えば【テコンド】というイメージが独り歩きしているけど、実際は学校や軍隊で無理やりやらされる科目なので、あんまり人気は無かったりする。でも、【ING闘技】って言うのも胡散臭くて怪しいよな」

サカモト
「今回の映画は別に格闘技物という訳ではなくて、ネットコミュニティと現実の二重生活がごちゃごちゃになった悲劇を描いた話、といった感じですか」

サイゴウ
「表向きはライト・コメディ仕立てだけど描いているネタは深刻だよな。韓国の状況が厳しくなればなるほど若者のネット依存がひどくなり、オンライン上の無法行為が進行して止められない様子を描いている。だから韓国は国家権力が大々的に介入してネット上の規制を行っているワケなんだけど、それって、日本じゃ考えられない」

サカモト
「日本はコミュニティ内の自浄作用が働くので、意外と歯止めが効いたりしますからね」

サイゴウ
「どこかの誰かさんたちは、無責任に韓国を【IT先進国だ】、なんて賞賛する前に、その弊害をきちんと知るべきなんだけどな。韓国企業から金を貰っているんなら仕方ないけどさ…」

サカモト
「仮にネット・コミュニティ上でヒーローになったり、スターになっても、しょぼい現実は何ら変わりません。そして現実が悪ければ悪いほど、さらに現実逃避としてオンラインへ篭ってしまいがちです。加害者のテシクも加害者の青年も、その悪循環から抜け出すことが出来ない」

サイゴウ
「主人公テシクはまだ29歳なのに無職っていうのもヤバイよ。いくら韓国でもソウルなら、やる気があれば働き口はあると思うんだけどな。彼がオンラインゲーム上の取引で銭を得ているところなんか、いかにも韓国的だけど、それって実際は犯罪に成りかねない」

サカモト
「テシクが包丁を持ち歩くようになってしまう様子も同情できません。それよりも、加害者側が極悪ではなくて、よくいる不器用で真面目な若者という事の方が悲しいです。しかも、彼は非正規雇用でも我慢して、ちゃんと働いている」

サイゴウ
「この映画が気持ち悪いのは、テシクが騙されて暴行を受け、その様子が動画サイトで晒されるという事件が起きても警察が動かないことだ。もし同じような事件が日本で起きたら、即逮捕だろ?そこがよく分からないんだけど、韓国って、ああいう事例に司法は動かないんだろうか?」

サカモト
「韓国はネット・コミュニティが荒れすぎているので行政の手が廻らないのかもしれませんね。一番怖いのは何よりもオンライン上での高揚感が忘れられず、現実では何をやっていいのか、悪いのか、区別がつかなくなっている一般ユーザーが少なからず存在する、ってことでしょう」

サイゴウ
「若い連中の【ネオ反日】ぶりや、これまた【ネオ韓国政府反体制】ぶりが昔よりも幼稚な方向に激化しているのも、ネット優先社会の悪影響じゃないのか。個々人が年中持ち歩けるスマートフォンの爆発的な浸透も、悪意に満ちたデマゴギーが拡がる問題に拍車をかけていると思うよ。でも韓国のネット関連産業って、ハード、ソフト共に国の最重要産業でもあるから、行政の抜本的規制が出来ないというジレンマがあるんじゃないだろうか?」

サカモト
「もし、政府が強権発動して今以上にインターネット上の大幅な規制をかけたら、中高校生辺りから、それこそローソク・デモやセウォル号事故責任追求デモ以上の似非暴力革命が起こりそうです」

サイゴウ
「ただ、この映画が韓国のネット依存に罹った若者たちの状況を明確に描き切っているかと聞かれれば、それも疑問だな。ネット上の諸問題って映画的に描きにくいこともあるけど、毎度おなじみの【韓国では常識です、それを知らないアンタが悪い】的な排他的前提がストーリーラインにあるので、外国人には分かりにくい」

サカモト
「一例が高校生ヨンジャですね。総合格闘技の国内クラス別準優勝者なのに学校では負け組だったりする。その鬱憤を晴らす場がネット・コミュニティなんですが、いまいち説得力ないです」

サイゴウ
「日本なら、あれだけの実力があれば現実社会で活躍するチャンスがいくらでも作れるだろうし、第一まわりが放っておかないだろう」

サカモト
「でも、韓国における総合格闘技の地位って、怪しい眉唾もの的扱いなのかもしれませんよ。芸能人と同じようなもので、人気はあるけど【社会的にはまともじゃない】っていう本音…」

サイゴウ
「やっぱり韓国で暮らしていない身からすると、よく分からない部分が多い映画だったよな。それゆえ逆説的に今の韓国における先端の社会問題を描いている、ってことなんだろうか?」

サカモト
「どうでしょうねぇ…映画自体はかなり真面目なんですけど」

サイゴウ
「でも、その真面目さを観客としてどう解釈すべきなのか、戸惑ってしまう映画なんだよな。特殊な仕掛けがあるかと思えばそうでもなし、結局は韓国社会の落ちこぼれを正当化する言い訳にしか見えなかったりする。主人公テシクがトラウマを晴らすべく現実で格闘技始めても何も変わらないし、肝心の事件はずるずるとフェードアウトしてウヤムヤ。最後にテシク自身がブチ切れて加害者になってしまう様子で、この『ING闘技』は社会派だったということが分かるにしても、やっぱり歯切れが悪いし納得できない。クソ真面目方向じゃなくて、開き直ったバカ系お笑いか、暗くて陰湿なハードゴア系に振った方が映画として、よかったんじゃないかな?」

サカモト
「でも、日本なら、そういう、あやふやさに価値を見出して、逆に評価されそうな感じもありますけどね。人間の惨めさ、みっともなさに、現代ならではの問題を絡めて正面から描いている作品、って解釈で…」

サイゴウ
「でも、それって【映画が面白いか、どうかは別】という前提での話だけどな。韓国の若手インディーズは、なんか、漠然とした擬似社会派方向に行っちゃう傾向がある」

サカモト
「ブロックバスターがあくまでも主流という今の韓国映画界に対する一種の抗い、主張ではあるんでしょうけど…」

サイゴウ
「この映画をエンタティメントとして観た場合、まず主要人物がよくないよ。無職青年に、のけもの女子高校生だもん。しかも俳優に魅力がないので共感もできない。そこにネット・コミュニティを映画で描くことの難しさが加わってしまう。スマート・フォンだとかPC画面で交わされる文面の羅列で会話を描く表現は正直疲れるだけ」

サカモト
「韓国映画ではメールが一般化して以来、その手の描写がやけに増えましたよね。色々と観せる工夫は凝らしているんですけど、どうしても観客側に映像とは別の、文字列解読を強要する演出になってしまっています」

サイゴウ
「それって、オレたちみたいな外国人観客にとっては、なおさら迷惑。その手の表現を増やすことが現代韓国の世相をよく表しているかと問われれば、それも違うと思うよ。安易なだけ。ハングルに優越感を感じる一部韓国人の哀しい象徴のようだ」

サカモト
「出演者的には高校生役演じたヨンジャが一番の注目株ということらしいですが、個性的ではあるものの、主演を張れるタイプじゃなかったと思います」

サイゴウ
「彼女は個性的に見えても実際はそうでもないタイプの女優だよ。ハン・イェリなんかが持っているルックスを超えた輝きみたいなものが無い。それよりもヘジュン演じたクォン・ユルが今回は一番良かったと思うよ」

サカモト
「男優の話で言えば、オム・テグを主役にした時点で失敗だったと思います。それくらい、彼には魅力がありませんでした」

サイゴウ
「この手の低予算作品が退屈でスカスカ、独り善がり系ワンパターンになってしまうのはやもをえないとは思うんだけど、それをカバーするのが監督の情念だとか、突出した無名俳優の存在。でも、この『ING闘技』は、その面でも全く恵まれなかったな」

サカモト
「ただ、ネタ的には旬な今風ですから、日本の誰かさんが勘違いして、TVの深夜ドラマ枠でリメイクしたら意外と大化けして面白いかもしれませんけどね」


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『ある視線6』(2012)★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『어떤 시선』
(2012)
★★+1/2★
(韓国一般公開 2013年10月24日)

英語題名
『If You Were Me 6』

日本語訳題名
『ある視線6』

ある視線2.jpg

(STORY)
すっかり定番となった「人権」をテーマに描く、三人の監督、三様のオムニバス。

『トゥハンへ/두한에게』 
(監督:パク・ジョンボム)
生まれつきの脳性麻痺で体が不自由なトゥハン(=イム・ソンチョル)は一般の中学校に通っていたが、同級生たちからは暗黙の「いない存在」だ。
唯一の友達はチョルウン(=キム・ハンジュ)だけだったが、裕福なトゥハンの家を訪れたチョルウンは、出来心でiPadを盗んでしまう。
それを学校に持って来たチョルウンだったが、トゥハンの兄の写真が入っていたことから盗品であることが周りにばれて…

『ボングは配達中/봉구는 배달중』
(監督:シン・アガ&イ・サンチョル)
独居老人のボング(=イ・ヨンソク)は引退生活を送っていたが、時折、シルバー事業の簡単な宅配仕事を請け負っていた。
彼には娘が一人いたが、アメリカ留学後、ボングの反対を押し切って現地で結婚してしまい、長らく会っていない。
ボングは仕事中にバスから独り降りてきた幼稚園児ヘウン(=ファン・ジェウォン)の奇妙な様子が気になり、彼と行動を共にするが、ヘウンが誘拐されたと勘違いした親が警察へ届け出たことから、ボングは知らない間に指名手配され大騒動が巻き起こる。

『氷河/얼음강』
(監督:ミン・ユングン)
自動車整備工場で働くソンジェ(=コン・ミョン)は真面目で優しい青年だ。
社長(=チョン・インギ)に信頼され、娘ヨンジュ(=パク・ジュヒ)は熱い想いを寄せている。 ソンジェは美容院を営む母(=キル・ヘヨン)と二人暮らしだが、父親はある事情でおらず、母子はまるで恋人同士のように仲が良かった。
ある日、ソンジェの元に徴兵の通知が届く。
母を一人ぼっちにしたくないソンジェは悩んだ挙句、密かに兵役を逃れようと画策する。
だが、母親は息子の兵役逃れを決して望んではおらず、逆にそのことを責め立てる。
八方塞がりになったソンジェは姿を消してしまい、母とヨンジュは最悪の事態を覚悟するが。
 サイゴウ
「国家人権委員会主導でこのシリーズが始まって早10年。第一作目が公開された当時はどこまで続くか、そしてやる意味があるのか、結構、オレ的には懐疑的だったんだけど、今ではすっかり定着した感がある」

サカモト
「インディーズで注目を浴びたクリエイターにとって、第二の登竜門みたいにもなっています」

サイゴウ
「かつてリュ・スンワンだとかチャン・ジンなんかが参加していたことが、今じゃ嘘みたいなんだけど、その代わり、次の作品を中々観ることが出来ない作家系監督たちの新作を観ることができる枠にもなっている。本当はそれって、いいことじゃないけどな」

サカモト
「【人権がテーマ】という鉄則はあるのですけど、日本の俳句みたいなもので、【縛り】が作り手側の冴えを見せる機会にもなっているのではないでしょうか?」

サイゴウ
「オレ的にはキム・ゴク、キム・ソン兄弟なんかにも参加して欲しいけど、たぶんやらないんだろうな。やれば面白いんだけどな~。今回はいつもより地味目だけど、どれも作り手の個性が良く出た短篇集になっている」

サカモト
「どれも、いい意味で安定していますしね。そこら辺は今日の韓国映画界をよく反映していると思います」

サイゴウ
「まず、『ムサン日記 白い犬(무산일기)』のパク・ジョンボムが手がけている一本目『トゥハンへ/두한에게』に大注目だな。『ムサン日記』はあまりにも独特でインパクトがあり過ぎだったんで、この後、彼は韓国映画界でどうなるんだろう、なんて心配していたんだけど、とりあえず一安心」

サカモト
「二番目の『シルバー配達中』を担当したのは『Jesus Hospital(밍크코트)』のシン・アガとイ・サンチョルのコンビです」

サイゴウ
「オレ的には『Jesus Hospital』って、あまりにもヒステリックで観客として歩み寄り難い印象があったから好きじゃない」

サカモト
「あの作品は男よりも女性の支持を受けたんじゃないでしょうか?」

サイゴウ
「でも、『シルバー配達』は『Jesus Hospital』とは対極的なマイルドな牧歌的コメディになっていて、今回、最もエンタテイメントしていたのは予想外だった。期待していたパク・ジョンボム作品は普通過ぎて、ちょっとズッコケかな。逆にノーチェックだったミン・ユングンの『氷河』が一番感動的で、韓国ならではの問題を正面からきちんと描いていた。彼の作品は初見だったけど大きな拾い物だったよ」

サカモト
「それでは、パク・ジョンボムの『トゥハンへ』から…」

サイゴウ
「普通の中学に通う脳性麻痺の主人公を巡る物語なんだけど、やっぱり監督目線がすごく引いていてドライ。同情なんか一欠片もないし、【こういう登場人物でこういう状況なら、こういう物語と展開になるだろう】的な実に理論的な作品だった」

サカモト
「『ムサン日記』もそうだったのですけど、即興的に見えつつも狡猾に計算された【カッチリさ】があります」

サイゴウ
「ちょっと、フェイク・ドキュメンタリーの趣きさえあったな」

サカモト
「学校の同級生たちが主人公を暗黙で【いない人】にしている様子は、なるほど、と思いましたよ」

サイゴウ
「唯一の友人、チョルウンがクラス内ヒエラルキーのかなり低い方にいたりして、そこら辺もリアルだ。監督の実体験が入っているんじゃないか?」

サカモト
「一方、トゥハンの方は凄く勝ち気で漢気があったりします」

サイゴウ
「起こる事件は大したことなくて、それもあっけなく解決しちゃうんだけど、その裏側にトゥハンの家は裕福で、チョルウンの家が貧乏という背景があるのは意味深だったな」

サカモト
「あそこら辺は格差問題を含んでいたように見えます」

サイゴウ
「演出的には突き放し系で、中学生演じる子役たちが若干戸惑いながら演技していたように見えたことはご愛嬌だな」

サカモト
「女の子のスカートの中を、下からこっそり覗きながら【仲直り】という爽やかな終わり方でしたけど、素敵なハッピーエンドでした」

サイゴウ
「あれって、ちょっと良かったよね」

サカモト
「次はシン・アガ&イ・サンチョルの監督コンビによる『シルバー配達中』です」

サイゴウ
「バタ臭いコメディだったので異色といえば異色だけど、一番浮いていた作品かもしれないな」

サカモト
「でも、韓国の独居老人問題をきちんと描いていたと思いますよ。主人公のボングは家族に捨てられた訳ではなくて、娘の米国移住に【俺も行く】って、率直にいえなかったんじゃないですか」

サイゴウ
「そういうキャラではあったな。娘から大量に送られてきていたビデオ・メッセージが、それを象徴していたのかもしれない。でも、手塩にかけて育て上げ大金をつぎ込んだ娘が、留学先のアメリカにとっとと移住して親だけが韓国に取り残されるという構図は皮肉だな。韓国らしいけど」

サカモト
「主人公のおじいさんは、かなりオシャレなので若い頃は結構イケイケだったんじゃないでしょうか。でも、年をとって見れば外国暮らしに順応する気力も既になく…みたいな感じだったのでは?」

サイゴウ
「そういう部分って、男は女より弱いのかもしれないな」

サカモト
「高齢者が従事する宅配サービスがあるのも意外でしたね」

サイゴウ
「あれも社会福祉の一端なんだろうな」

サカモト
「韓国では日本以上に高齢化が進み、格差も進み、若手と裕福層の海外脱出はますます増え…で、隠居組にはシンドい状態になっているみたいですけど、それ以前に若い世代がそういった自国の問題に関心が薄くて興味がない、ってことの方が一番危ないような気がします」

サイゴウ
「日本も似たようなモンだけど、韓国の若者の場合、【自己中心的】に生きていかないとマジで社会から落ちこぼれちゃう、っていう悪循環があると思うよ」

サカモト
「そうだとすれば、『シルバー配達中』で描かれたものは、ましな方かもしれません」

サイゴウ
「留学の目的がいつの間にか、【海外移住】暗黙の前提になっていたり、その犠牲になるのが仕送りする父親たちや取り残される高齢者だったり、という弊害もこの作品では同時に提起されていたんじゃなかろうか。一見ヤクザなジイさんが善人で、可哀想に見えた幼稚園児が一番ずるかった、っていうのは笑えるオチだったけど、裏読みすると、かなり深刻なものを内包したエピソードだったかもしれない」

サカモト
「トリの『氷河』は、一番ジーンと来た作品です」

サイゴウ
「シン・ドンイル監督の『訪問者(방문자)』とテーマは重なるんだけど、韓国男子の抱えている問題を率直に描いていたと思う」

サカモト
「徴兵制度自体は韓国社会の問題ですから、我々外国人がとやかく批判したり、安易にほめ讃えたり称えたりすべきことではありませんが、日本で【韓国を見習え!】と無責任に喚いている一部の人たちに観て欲しい作品でした」

サイゴウ
「韓国では徴兵制度が男子義務教育仕上げの場になっていて、ある程度若年層の犯罪抑制の役割を果たしている面があるのは否定しないけど、だからといって日本人が声高にそれを高く評価して【日本でも取り入れるべきだ!】と主張するのは変だよな。いや、異常だよ。かつての赤紙経験者がそう言うならまだ納得できるけど、戦後生まれの韓国信者が主張する【韓国人男性は紳士的で優しくて頭脳優秀、それに比べて日本の若者は…】という身勝手な前提を正当化するために、日本で徴兵制復活を展開すべきじゃないだろう」

サカモト
「最近は韓国のリアルなダメぶりが日本でも一般に知られ始めたので、そういうメチャクチャな主張を堂々と自慢気に主張する頭のおかしい人は大分減りましたけど、韓流ブームの時は冗談抜きで酷かったですもんね」

サイゴウ
「徴兵に赴くスターを日本の阿呆なファンが基地正門前で待ち構えてキャーキャー応援する様子なんか、あまりにも無神経だと思ったよ。ファン心理としては理解できない訳じゃないけど、ちょっとは徴兵される側の気持ちを考えろよ」

サカモト
「『氷河』のポイントは徴兵される息子を持つ母親の立場が重点的に描かれていたことですね。すごく仲の良い母子なので観ていて辛かったです」

サイゴウ
「韓国は、この映画に出てくるような母子家庭が結構多いので、残される側は切実だ。父親がいない理由もかなりリアルだったりする。息子が徴兵されることについて、韓国の親の立場にある人たちはあんまりネガティブな言い方を他人にしないんだけど、この映画では韓国のタブーになっている部分が、ちゃんと描かれていたと思うよ。昔、知人の奥さんが息子を軍に送り出す前日、一晩かけて将来を母子で語り合ったことをオレに話してくれたことがあるんだけど、いつも明るい人なのに悲しみを隠せなかった。それをこの作品で思い出したよ」

サカモト
「韓国の徴兵制度をほめ讃える日本人の中でも、韓国に度々来て、韓国男子を買い漁っていた方々の多くは息子を軍隊に送り出す韓国側の母親と年齢や立場がかなり重なるんと思うんですけどね。結局、韓流ブームに。まともな人的交流や相互理解なんて、ほとんどなかった証でしょう」

サイゴウ
「ソンジェが特定宗教団体に徴兵拒否の協力を求めるくだりがあるんだけど、彼が母親を守るには、ああいうカルトに頼るしか方法はないのか、みたいな絶望感があったよな」

サカモト
「いくら【良心的徴兵拒否】といっても韓国では単なる犯罪者。韓国が今だ戦時下体制にあるという現実を、もっと日本人は知るべきでしょう」

サイゴウ
「韓流好きの日本人女性や左翼系韓国信者のウケを取るために韓国の徴兵制があるワケじゃないもんな。でも、日本ではかつて存在した徴兵制度という【負の遺産】を昔ほど語り継がなくなって来ているのも事実だから、これはこれでマズイ気はする」

サカモト
「それでも【自国の負の歴史を後世に引き継がせる】という意味では、韓国は今も褒められたものではないと思いますけどね。もっとも、表向き大騒ぎする割には、本質的にそういうことへ関心が無いようにしか見えない人達が多いので、韓国のマスコミや政府が必要以上に騒ぎ立てているという解釈もできますが…」

サイゴウ
「近い将来、韓国で徴兵制度が廃止された暁には、この『氷河』を観ても理解できない、共感できない人たちが、それこそ、あっという間に主流になってしまう気がする。その豹変ぶり、入れ替わりぶり、忘却ぶりの速度は、韓国の誰かさんたちが憎悪に満ちた批判を繰り広げている【悪の根源・日本】よりも遥かにヒドいだろうな」

サカモト
「結局、最後に残るのは【なんでも日本が悪い】というプロパガンダだけですか。トホホ…」

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『ロシア小説』(2012)★★★ [韓国映画]

原題
『러시안 소설』
(2012)
★★★
(韓国一般公開 2013年9月19日)

英語題名
『The Russian Novel』

日本語訳題名
『ロシア小説』

勝手に題名を付けてみました
『ロシア小説のようにダラダラと』

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(STORY)
シニョ(=イ・シニョ)は大工仕事を手伝いながら小説家を目指していたが、現実はただのフリーターだ。

書きかけの小説は一向に進まず、毎晩酒を飲み明かしては女性の尻を追うだけ、唯一の友人で舞台演出家を志すソンファン(=キョン・ソンファン)に、才能も人格も劣っていることを自覚している。

そんなダメ男シニョを密かに慕っていたのがジェヒ(=イ・ジェヒ)だったが、シニョはジェヒの想いに気がつかず、工場務めをしながら小説を書いているキョンミ(=イ・ギョンミ)に一目惚れし、つきまとうようになる。
そして、シニョとキョンミは微妙な男女関係になるが、実際はシニョがキョンミに翻弄されているだけだった。

だが、シニョを失うことを恐れたジェヒが、ある突飛な行動に出たことから、シニョは長い眠りについてしまう。

やがてシニョが病院で眠りから目覚めた時、彼を巡る状況は全ては激変していた。
事の真相を突き止めるべく、シニョはかつての仲間を探し求めるが…
サイゴウ
「『ロシア小説』なんてタイトルだから、退屈な文芸モノかと思って臨んだけど、最近の韓国映画の中で、もっとも予想を覆された作品といってもいいかもしれない」

サカモト
「実際、最初の展開は絵に描いたように退屈でしたからね。【これで140分我慢するのか!】って物凄く不安になりました」

サイゴウ
「隣の客なんか、出だしから爆睡していたよ。でも、最初の一時間くらいを過ぎると、雪だるま式に面白くなって行く不思議な映画なんだよな、これが」

サカモト
「物語の舞台になるのが約30年前と現代のソウルなのですが、なぜそうなるかは、観てのお楽しみですね」

サイゴウ
「【過去回帰モノ】として観ても結構面白いよな。低予算作品ではあるけれど、映像に工夫が凝らされているので、時代性がよく出ている。昔の弘益大前や新村、仁寺洞辺りの【ぐたっ】としたサブカル的雰囲気を知っている人には、懐かしいかもしれない」

サカモト
「そこら辺、弘益大前辺りは、今もあまり変わりませんけどね。だからこそ成立した作品でもあったと思いますが、今は大手デベロッパーの暴力的な再開発がガンガン進んで急変中なので、本当に残念です」

サイゴウ
「ネタばれを避けたいので、あんまり詳しくは言えないんだけど、映画は二部構成になっていて、それが驚きの展開になっている」

サカモト
「出だしこそ、つまらない青春奇譚という流れですが、その退屈さがあったので後半の驚きがなおさら増幅される、という仕掛けになっています」

サイゴウ
「あそこら辺の展開は計算なのか、成り行きでそうなったのか、判然としないんだけど、この作品の価値を決定付ける展開と言っても過言じゃない」

サカモト
「呆れて怒るか、唖然として拍手するかは人それぞれですが、変化球が苦手な人はダメかもしれませんね」

サイゴウ
「普通、この手の作品ではありえない【あざとさ】に満ちた展開なんだけど、あまりに意表を突いていたので、逆にオレは感心したよ。インディーズはこうあるべきだ、っていう見本かもしれない」

サカモト
「監督のシン・ヨンシクは独立独歩で映画製作のキャリアを進んでいる人らしいですけど、それが納得できる映画ですね」

サイゴウ
「ガチで映画青年だった人や、生半可にシナリオを学んだ人じゃ、こんな発想を実地に移すとは思えないからな」

サカモト
「映画自体はどちらかと言えばオーソドックス、リズムも安定している方だと思いますが、それを微妙に崩すのがうまいです」

サイゴウ
「いたずらな遊び心があるよな」

サカモト
「それゆえ、【なんだこりゃ!邪道だ!】って怒る人もいるでしょうけど…」

サイゴウ
「でも考えて見れば、昔のヌーベルバーグ系に感化された映画って、以前はこんな感じばっかりだったような気もする。案外そういった過去の作品が持っていた自由さを再現しようとしたのかもな」

サカモト
「低予算を逆手に取った自由奔放さがあった、といえるかもしれませんね」

サイゴウ
「最近の韓国インディーズは、こういう【自由さ】がめっきり無くなったので、なおさら。妙に基本に忠実で正当派なのはいいけど、お行儀が良すぎる」

サカモト
「この『ロシア小説』は【計算された天然さ】って感じですか。でも、キム・ギドク作品が持つ天衣無縫さとは全く異質のものでしょう」

サイゴウ
「【型に嵌らない異様さ】って点では共通しているけどな」

サカモト
「出演者もいいですよね。皆ほとんど無名ですが、うまいし個性的です」

サイゴウ
「なによりも情けない主人公演じたカン・シニョの魅力が光っている。今後、注目の若手だな」

サカモト
「映画の前半に彼がいたからこそ、あの驚きが生まれたと言ってもいいのでは?」

サイゴウ
「彼を翻弄するイ・ギョンミもいい。演技は下手くそだけど、それもまた味。映画が加速度的に面白くなったのは二人の掛け合いに負うところが大きい」

サカモト
「イ・ギョンミのツンデレぶりは彼女が美人かどうかは別にしても、魅力的でしたし…」

サイゴウ
「キョン・ソンファンも何気でいいよな」

サカモト
「彼は育ちの良さみたいなものをきちんと感じさせるキャラでしたね」

サイゴウ
「善人で有能な彼の役は、主人公が持つ別の側面を象徴したようなキャラクターでもあって、物語が急展開を迎えた後、それが大きな意味を持って来るわけだ」

サカモト
「そう考えると実は【シニョ=ソンファン】【キョンミ=ジェヘ】という企みが裏側に隠されていて、それが最後の最後に現代のシニョへと収束してゆく物語だったのかもしれません」

サイゴウ
「それって、この映画観ないとなんだか分からない話だけど、観た人の何割かは、たぶん分かってくれると思う」

サカモト
「決して難解な映画ではありませんし、堅苦しい映画でもありませんが、ちょっとパズルみたいな部分があるので、そこら辺の仕掛けに乗れるか乗れないかで楽しめるか否かの作品だったと思います」

サイゴウ
「食べ物に例えれば、クサヤやホンオ、パクチー好きには堪らない魅力を抱えた映画だと思うぞ」

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『ホラー・ストーリーズ2』(2013)★★ [韓国映画]

原題
『무서운 이야기2』
(2013)
★★
(韓国一般公開 2013年6月5日)

英語題名
『Horror Stories II』

日本語訳題名
『怖い話2』

日本公開時題名(DVDスルー)
『ホラー・ストーリーズ2』

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(STORY)
『444』(オープニング、幕間劇、エンディング/監督:ミン・ギョドン)
保険会社で働くパク部長(=パク・ソンウン)は、連日連夜、査定で残業だ。
そこにゴスロリの新入り社員セヨン(=イ・セヨン)がやって来る。
実は彼女、不思議な能力を持っていて、査定保留になっている案件の霊視させようというのだ。
パク部長はセヨンを連れて、会社の秘密資料室に赴き、不可思議な事故を調べ始めるが、朝4時44分を迎えた時、パク部長には思いがけない恐怖の結末が待ち受けていた。

『絶壁』(第1話/監督:キム・ソンホ)
投資家チョン・ドンウク(=ソン・ジュン)は友人チェ・ソンギュン(=イ・スヒョク)と山登りに行くが、山頂で写真を撮った瞬間、足元が崩れて転落し、二人は中腹の岩棚に閉じ込められてしまう。
携帯電話機も食料もなく、寒さと飢えで衰弱する中、密かにドンウクはチョコバーを隠し持っていた。
そして諍いが起こり、ソンギュンはチョコバーを取ろうとして転落死してしまう。
やがて山岳救助隊に救出されたドンウクだったが、自宅に戻った彼の元に、ソンギュンの弟と名乗る男が訪れたことから、山の悪夢が再び始まる。

『事故/死苦』(第2話/監督:キム・フィ)
就職試験に失敗した三人娘カン・ジウン(=ペク・チニ)、ユン・ミラ(=キム・スルギ)、キル・ソンジュ(=チョン・インソン)は、郊外へ憂さ晴らしのドライブに出掛けるが、夜道で事故を起こし、車を大破させてしまう。
助けを求めて人家を探す彼女たちだったが、そこは交通事故多発地帯だった。 謎の人影に怯えながら、老人(=キム・ギチョン)が独りで住む一軒家を見つけるが、様子がおかしい。
やがて、その家があの世の入り口であることを知り、一人逃げ出したジウンだったが、夜が明けて救出された彼女を待ち受けていたのは、予期しない真実だった。

『脱出』(第3話/監督:チョン・ボムシク)
教育実習生のコ・ビョンシン(=コ・ギョンピョ)は、緊張でお腹を下す体質の持ち主。
配属された女子校では、早速、学年主任(=イム・ウォニ)に脅される始末。
ビョンシンは教え子で黒魔術マニアのサ・タンヒ(=キム・ジウォン)から、エレベーター内である法則に従ってボタン操作を行うと、恐ろしいことが起きることを教えられ、実家のあるアパートでそれを実行してしまう。
さっそく現れた女の幽霊から辛くも逃げ出したビョンシンだったが、家で彼を待っていたのは血だらけの怪物と化した家族(ハン・ギボム、ソ・チャノ、ソン・ジンウ)だった。
タンヒに携帯電話で脱出方法を乞うビョンシンだったが、それを成功させるには厳密な時間ルールを守らなければならない。
脱出に失敗したビョンシンが生きながら落ちた地獄で見た驚愕の風景とは?
サカモト
「意外や意外、第二弾が登場するなんて驚きました」

サイゴウ
「前作が面白かったから、個人的には嬉しいけどね。でも、製作費を大幅に減らされているのが見え見えの仕上がりなので、ちょっとガッカリな内容だった」

サカモト
「ブロックバスターというよりも、低予算インディーズのノリでしたね。まあまあ手間をかけた映像にはなっているのですけど、ディティールが貧相になっています。第一作目はそこら辺が良かったのですけど…」

サイゴウ
「映画のデザインワーク水準を知るには、ホラー映画って、いい見本になるんだけどな。今回は一昔前の韓国ホラーのノリで、古臭いし…」

サカモト
「そのせいか、人間ドラマ重視に思えました。でもその分、退屈かも」

サイゴウ
「【人間ドラマ】と言っても、たいしたことは無いけどな」

サカモト
「前回と同様、今回も冒頭、幕間、トリをMC的に務めるエピソードを、大御所ミン・ギュドンが手がけていますけど、これからして、もう安っぽいです」

サイゴウ
「『444』は日本のホラー映画系のノリかな。ゴスな女の子が出て来るし。でも、保険会社が舞台なのは、アイディア倒れの感があってすっきりしない。オチもなんだかねぇ…」

サカモト
「ネタ切れっぽいですよね。ゴス少女に『少女たちの遺言』のイメージを重ねることも出来ますが、映像には当時のような鮮明さはなくなっちゃいましたね。あくまでも監督の好みだけ、って感じです」

サイゴウ
「第一話『絶壁』は、アイディアがいいんだけど、物語を欲張っちゃったんで怖くなくなってしまったな。全編を山で遭難した状態のままにして、亡霊と戦うサバイバル・バトル物にすれば、もっと面白かったのに…」

サカモト
「それだけでは話が保たなかったのでは?自宅に戻ってからのエピソードも蛇足っぽいですし…」

サイゴウ
「監督のキム・フィはホラーに向いていない人なんじゃないのかな。持っているベクトルが違うと思う」

サカモト
「この脚本は、日本で作った方が面白くなりそうなネタかもしれません」

サイゴウ
「二番目の『事故/死苦』も途中までは期待させたんだけど、やっぱり最後は腰くだけ。期待の若手女優、三羽烏がせっかく出ているのに…」

サカモト
「これもサバイバル物に徹していたら、面白くなったお話でしょう」

サイゴウ
「あの世の存在を、白塗りの俳優がやっている時点で、子供向けの教育マンガみたいになっちゃう。やっぱりオカルテックなものを明確にしてはいけないよ。その時点でつまらなくなる」

サカモト
「幽霊の見せ方がかなりヘタで、素人が作ったゾンビ物かと思いましたよ」

サイゴウ
「キム・スルギも演技過剰で全然良くない。彼女に【元気な女の子】をやらせても意味がない。ペク・チニも生彩ないし…」

サカモト
「第三話『脱出』は、シリーズ一作目の『海と月』を手がけたチョン・ボムシクが引き続き再登板です」

サイゴウ
「これだけは拾い物だったかな。でも、チョン・ボムシクって、ホラーよりコメディの方が好きなんじゃないのか?」

サカモト
「どちらかと言えば、そんな感じがしましたね。今回の作品を観た限りでは、ですけど…」

サイゴウ
「一番製作費が掛かっていたのが、この『脱出』じゃないかな。映像を【デジタルでイジクリ廻しました!度】がやけに高い」

サカモト
「完全にドタバタコメディだったのも意表を突かれました。そして、やけに雰囲気が明るかったりします」

サイゴウ
「完全に他のエピソードから浮いているんだけど、ギリギリ、ホラーとしての許容範囲かな?って感じだ。もっとも、そんなに出来は悪くないけどな」

サカモト
「かなりバタ臭いテイストですけどね」

サイゴウ
「お化けのデザインは東洋系、地獄の様子は西洋系という折衷案だな。エレベーターのおばさん幽霊は、ちょっと画像処理入れすぎで、気持ち悪いけど怖くなかった」

サカモト
「主人公のビョンシンが遭遇する化け物一家は、『ヘルレイザー』に出てくるセノバイトみたいで面白いデザインですが、最後の最後まで、あの妙なお面を取るべきじゃなかったですね。早々に素顔を見せてしまうので気味悪さ半減です」

サイゴウ
「あそこら辺も基本はギャグだよな。この監督、総じてハード・ゴア系描写へのこだわりは薄いと見た」

サカモト
「地獄の風景はシンプルですが、ビジュアル的にはまあまあですか。ただ、オチが余計で、写真に撮ったものはドッチラケです」

サイゴウ
「それよりも冒頭の女子校の光景の方がリアルで怖かったりする。監督本人に教育実習生の経験があるんじゃないの?」

サカモト
「女子トイレに大量のウンコが散らばっていて、それを拭いたらしいタオルのようなものがゴミ箱に無造作に投げ捨ててあって、【くっせー】って女の子たちがやっている様は、今回一番インパクトがあったシーンです」

サイゴウ
「今思えば、それだけが最後まで脳裏に焼き付いたオムニバスだったな」

サカモト
「はしごを外された感は否めませんが、このままユルユルとシリーズ続けていれば、【新たなる地平線】が見えて来たりして…」

サイゴウ
「【目指せ!女高怪談】だな、こりゃ…」

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