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(2015年7月より不定期掲載)
日本と韓国の裏側で暗躍する秘密情報機関JBI…
そこに所属する、二人のダメ局員ヨタ話。
★コードネーム 《 サイゴウ 》 …仕事にうんざりの中堅。そろそろ、引退か?
☆コードネーム 《 サカモト 》 … まだ、ちょっとだけフレッシュな人だが、最近バテ気味

韓国映画の箱

(星取り評について)
(★★★★ … よくも悪くも価値ある作品)
(★★★ … とりあえずお薦め)
(★★ … 劇場で観てもまあ、いいか)
(★ … DVDレンタル他、TVで十分)
(+1/2★ … ちょっとオマケ)
(-★ … 論外)
(★?…採点不可能)
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『犬どろぼう完全計画』(2014)★ [韓国映画]

原題
『개를 훔치는 완벽한 방법』
(2014)
(韓国一般公開 2014年12月31日)

英語題名
『How To Steal A Dog』

日本公開時題名
『犬どろぼう完全計画』
(日本一般公開 2016年7月18日)


inu2.jpg
[コピーライト]2014 Samgeori Pictures Co,Ltd.ALL RIGHITS RESERVED


(STORY)
チソ(=イ・レ)は小学校に通う10歳の女の子。
母チョンヒョン(=カン・ヘジョン)、弟チソク(=ホン・ウンテク)の三人暮らしだ。
チョンヒョンの夫がピザ屋事業に失敗後、行方不明になったことが原因で家を失い、今は元屋台のワンボックカーで暮らしていた。

同級生のチェラン(=イ・ジウォン)は大の仲良しで、チソがホームレス同然の暮らしをしていても気にせず、お互いに家を行き来していたが、あくまでもクールなチソは、自分の周囲と大人たちの行動を、いつも冷ややかに見つめていた。

ある日、母親が働くことになった住宅街の高級レストランで、チソは経営者のノ夫人(=キム・ヘジャ)が愛犬を溺愛し、いつも連れ歩いていることを知る。

一方、店のマネージャーのスヨン(=イ・チョニ)は、表向きは社長に低頭平身だったが、実は腹黒い野心家で、ある陰謀を企てていた。

学校帰り、街の不動産屋で激安の一戸建てを見つけたチソは、同じく街場に貼られたポスターから、行方不明のペットに高額の懸賞金が掛けられていることを知る。

そのことをヒントに、チソはノ夫人の愛犬を誘拐、発見者を装って、家を買う資金を手に入れる計画を思いつき、チェランとチソクを巻き込んで早速実行するが、犬に逃げられてしまう。

途中、ハーレーに乗った謎の浮浪者テボ(=チェ・ミンス)の助けを得て、行方不明になった犬を追うチソらだったが、スヨンは騒動を利用して、ノ夫人を陥れようとする。

こうして、私利私欲に目が眩んだ子供と大人の醜い犬争奪戦が始まった!
サカモト
「基本的には凡庸なファミリー向け、子供向け映画でしかないと思うのですが、意表を突いた【お久しぶり的】な豪華キャストと、やたらと大人びた子役の演技が印象深い、妙にひねくれた変な映画でしたね」

サイゴウ
「この映画も【なんちゃってブロックバスター】を狙ったんじゃないのか?お話も登場人物も、古臭い児童映画の定石なんだけど、実体は子供が観ても大人が観ても、退屈なだけの【アートフィルムもどき】。これじゃ、家族連れなんかで行ったら、子供が飽きて大変だろう。そこら辺は作り手側が計算でやったのか、そうなっちゃったのか、全く分からないけど、観客対象不明の【偽児童映画】だ」

サカモト
「ある意味、お子様たちの期待を裏切ったと言われる、宮崎駿監督の『風立ちぬ』とよく似た性格の悪い映画かもしれません」

サイゴウ
「でも、『風立ちぬ』の場合は確信犯だろ?『犬どろぼう完全計画』の場合は、そこら辺がさっぱり分からないんだよな。脚本自体は1980年代の空気が漂う【お懐かしや映画】だったと思うんだけど、そんな企画を今さらやる必然性が分からないし、第一、そんな企画にロートル気味だけどギャラの安くないスターが何人も出る訳はないだろうしで、それだけを考えると、作り手側が確信犯的に【偽児童映画】を仕掛けたとも読めるんだけど、映画自体は凡庸だから、どうしても【知らない間にこうなっちゃった】的映画にしか、見えないんだよね」

サカモト
「韓国映画としては珍しくアメリカの小説(※)を原作にしていますから、気合の入っていた企画だったとは思うんですけどね。作風が古臭いのも、原作が強力すぎてクリエイターの手に余ったのか、エージェント絡みの船頭が何人もいて、監督の本領発揮が出来なかったのかもしれません」
(※)バーバラ・オーコーナー原作『犬どろぼう完全計画』(日本では文渓堂から日本語訳刊)

サイゴウ
「そう、一番の問題は、クリエイターの冴えをさっぱり感じなかったことなんだよ。監督のキム・ソンホは、そこそこの本数を手がけている人だけど、やっぱり、まだまだこれから、って感じかな。『ホラー・ストーリーズ2(무서운 이야기 2 )』の『絶壁(절벽)』が素人くさいながら結構面白かったんだけど、やっぱり長編は向かない監督なのかも」

サカモト
「力関係で俳優その他が監督よりも偉すぎて、思うように演出できなかった、って印象も否めません。とにかく演技が皆ガチガチで、遊びが無いし、韓国に舞台を移したローカライズという点でも、【そのまんま】って感じしか、しませんでしたし…」

サイゴウ
「韓国映画としてはちょっと毛色が変わっている感じもあるんだけど、おそらく原作に準拠した部分なんだろうな。小説に振り回された結果かもしれない」

サカモト
「主人公一家がホームレスで自動車暮らしだとか、彼らを助ける浮浪者のオッサンが何故かハーレー乗り回しているとか、不自然にバタ臭いですよね。それが一つの世界観としてまとまっていれば、、まだよかったのですが、最後までギスギスしている」

サイゴウ
「チェ・ミンスがハーレー乗りの浮浪者役なのは、まあ、韓国側の駄洒落だろうけど、演出的には役者側に強要されたような気もする。キム・ソンホくらいの監督だと、チェ・ミンスのわがままを聞くしかないだろ?そう考えると、全く笑えない」

サカモト
「チェ・ミンス自身は、いい俳優なんですけどね…」

サイゴウ
「彼がハーレー乗りって設定も韓国人じゃないと笑えないネタ。ビートたけしのタケちゃんマンだとか、木梨憲武の仮面ノリダーなんかと同じの古いノリだ」

サカモト
「ただ、犬がらみだからという訳ではありませんけど、十年前のポン・ジュノが手がけたら、傑作になっていたような気はしますね、この題材は。妙にポン・ジュノ的世界を感じさせる物語でしたから」

サイゴウ
「ポン・ジュノの世界観って、意外とバタ臭くて、アメリカの現代文学みたいな雰囲気があるからな」

サカモト
「結局、今回はロートル系スターの共演を楽しむのが一番利口な観方かもしれませんね」

サイゴウ
「カン・ヘジョンをロートル呼ばわりするのは失礼なんだけど、どうせなら、ペ・ドゥナみたいに誰か日本に招聘して使えばいいのにな。勿体無いよ」

サカモト
「彼女はまた顔が変わりましたよね。『バタフライ(나비)』だとか『オールド・ボーイ(올드보이)』の頃とは別人のよう。まあ、【綺麗なお姉さん系】イメージということで、今のルックスの方が韓国では受けがいいんでしょうけど…」

サイゴウ
「でも、彼女みたいな個性派女優は、顔形を変えちゃうとつまらない【エセ美人女優】でしか無くなってしまうから、引退して、伝説の女優になってしまう方が、実はよかったりして???」

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『ミヌさんが帰ってくる日』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『민우씨 오는 날』
(2014)
★★★+1/2★
(韓国一般公開 2014年12月18日)

英語訳題名
『Awaiting』

日本語訳題名
『ミヌさんが帰ってくる日』

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製作:(주)빅픽쳐/配給:미로비젼

(STORY)
ヨンヒ(=ムン・ジェウォン)は、ソウル江北の旧市街地にある古い家で、たった独り、暮らしている。
家の中にはスケジュールと備忘録が貼られ、毎日が規則正しい生活だ。

そんな彼女はいつも、恋人ミヌ(=コ・ス)の帰りを待っている。
毎日、彼の好きな献立で食事を作り、背広にアイロンを掛け、何を話そうかと考えながら一日を過ごす繰り返しだったが、いくら待ってもミヌは帰って来ない。

あの日の朝、仕事へ出かけたまま…

そんな彼女の元へ、ある僥倖がもたらされるが。

過去の記憶に閉じ込められたまま、今を漂泊し続ける一人の女性を通して描く、南北分断の悲劇。

サイゴウ
「最初、この映画の監督がカン・ジェギュだって聞いて、ちょっと驚いたんだけど、蓋を開けたら28分の短編だった」

サカモト
「『マイ・ウェイ』の失敗で、当分韓国映画界復帰は無理だろう、みたいな印象はありましたからね(※)。まあ、今回は中国系資本のようですが…」
(※)日本でも上映された長編『チャンス商会(장수상회)』は、2015年4月9日に韓国で一般公開された。

サイゴウ
「でも、個人的には嬉しいよ。カン・ジェギュの【銭集めマジック】がまた炸裂したのかもしれないが、何んやかんや言われても、不死鳥のごとく作品を携えて復活する姿は、凄いと思うし、これって、日本のクリエイターに最も欠けている部分かもしれないな」

サカモト
「そこがまた、日本と韓国の文化の差異でもあるのでしょうけどね。でも、カン・ジェギュ一派は、独立独歩でここまで傑作や大作をヒットさせて来た存在ですから、やっぱり、世間が彼らを捨て置かなかったのは当然でしょう」

サイゴウ
「カン・ジェギュの作品や、そのやり方を口汚く罵って否定する人たちが韓国にいるのは事実だけど、やっぱり、その功績は韓国映画の歴史、いや汎アジア映画史から絶対消せないものだ。日本では『シュリ』の印象ばかりが先走りしているかもしれないけど、彼の持っている普遍的な映画の才能と強運ぶりは、やはり只者ではない」

サカモト
「なぜ、カン・ジェギュの作品が低い評価ばかり受けるかについては、ちょっと、不公平な部分が昔からありますよね。韓国映画界では、とびきりの成り上がりですから、やはり、同業者の妬みと僻みが、低い評価の根底にあるのは否定出来ないと思います」

サイゴウ
「カン・ジェギュとその仲間って一時期、そういう韓国映画界を牛耳る古い一派に対して、【反旗を翻そうとしたんじゃないの?】みたいな勢いがあったしな」

サカモト
「『シュリ』の大ヒット以降、映画製作のみならず、映画館にケーブルTV局の経営と、韓国の映像業界では、ちょっとした新興勢力になりかけていましたからね」

サイゴウ
「ハリウッドで言えば、『スターウォーズ』以降のジョージ・ルーカスの位置に、当時は近かったのかもしれないな。でも、その攻撃的な独立独歩の姿勢が、韓国内で反感も買い、結果、足を引っ張ってしまったきらいがあったと思う。『シュリ』と『ブラザーフット』の成功って、実は韓国映画界の保守勢力を、かなり敵に廻したんじゃないか?と思うんだよ。だから、カン・ジェギュのその後って、試行錯誤と失敗を繰り返した挙句、優先順位が高いとは思えない『マイ・ウェイ』を、鳴り物入りの大作として撮らざるをえなくなってしまったんじゃないのか??『マイウェイ』って本当は、カン・ジェギュのアメリカ進出が失敗して、ビジネス的にどん詰まりになった結果じゃないかと、オレは考えているんだけどな」

サカモト
「『マイ・ウェイ』は、日本資本を味方にするための露骨な【方便】みたいな企画でしたからね。でも、日本側を味方にすることは出来なかった…」

サイゴウ
「そして最後に残ったのは、中国系資本だった、というワケかな?まあ、これはオレたちの【妄想分析】だけど、実際、カン・ジェギュ組は以前から中国と関係があったからね。でも、今回のような【落ち穂拾い】な短編であっても、カン・ジェギュが新作を抱えて復活したことをオレは純粋に喜びたいと思う」

サカモト
「今回の作品は『シュリ』に通じる、【南北分断】の悲劇を描いていますけど、自分たちの歴史に対するこだわりという点で、カン・ジェギュらしいブレのない秀作だったと思います」

サイゴウ
「【また、このネタ?】みたいな疑問を投げかける向きもあったとは思うけど、韓国でも急速に忘却の淵に追いやられようとしている離散家族の問題を、こうやって丁寧に描くことが出来る大物クリエイターって、今じゃ彼くらいだろ?個人的にはこうした問題に関心を持って心を痛めていても、それを映画にしようとすれば【企画が通らない→企画を持ち込んだクリエイターが仕事を干されちゃう→イエスマンの新人監督使い捨て】という悪循環を助長させるだけだったりする。だから、カン・ジェギュ自身がクリエイターとしてブレなく新作を発表するには、今回のようなやり方は仕方が無いとも言える」

サカモト
「映画の構成は、現代と過去をダブらせながら描くという、ちょっと凝った構成になっていますが、演出が明確なので混乱することはありません」

サイゴウ
「人間が歳を取るということは、この映画で描かれた通りだと思うよ。世の中は変わり、自分は老いても思い出は変わらない。だから、知らぬ間に現実について行くことができない…そこに南北分断問題を絡めて描いているワケなんだけど、自分が歳を取る度に切実な現実として立ちはだかってくるよな。カン・ジェギュ自身が感じている【老い】を描いたのかもしれない」

サカモト
「主人公が過去と現実があやふやなまま、行方不明の恋人に会う為、第三者に連れられて38度線に向かったものの、政治的な事情でそれが阻まれてしまう。ですが、現実と過去の区別があやふやになっている彼女にとってそれは【なぜ?どうして?】という不条理以外の何者でもありません。強引に38度線を越えようとする彼女をみんなが押さえつけて、ミヌの為に作った手弁当が飛び散るシーンは本当に悲しいです。弁当を作るプロセスを丁寧に描いているので、なおさら」

サイゴウ
「【韓国的ドラマツルギーのパターン】と言えばそれまでなんだけど、そのワンパターンな映画的定石を、いつも、さり気なく上手く使っているんなんだよな。そこら辺がやはりカン・ジェギュの卓抜した部分だ。これを馬鹿にする映画ファンもいるだろうけど、【基本に忠実】という意味で、カン・ジェギュ作品はいつも見習う点が多いと思うよ」

サカモト
「コ・スが本当にちょっとだけ出ていますが、ヒロインよりもインパクトがありました」

サイゴウ
「当時の【ダンディズム】みたいなものが良く出たキャラだったよな。そこら辺も、やっぱりカン・ジェギュの上手さだな」

サカモト
「対照的にヒロインのヨニ演じたムン・チェウォンの影が薄いのですが、これもまた、計算の上でのことなんでしょうねぇ」

サイゴウ
「彼女が演じるヨニは、儚い幻影であって、実際は存在しない影のようなものなのだろうな」

サカモト
「今回の作品は30分に満たない短編ですが、カン・ジェギュが一貫して追求している【韓国の歴史】という一テーマが濃縮された秀作だったと思います」

サイゴウ
「短いといっても、かなり贅沢な作り。おそらく無名インディーズなら何本か作れちゃうくらいの製作費は掛かっているので、決して侮らないように…」



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『第4イノベイター』(2014)★ [韓国映画]

原題
『제4 이노베이터』
(2014)
(韓国一般公開 2014年12月18日)

英語題名
『The 4th INNOVATER』

日本語訳題名
『第4イノベイター』

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製作&配給:삼라 주식회사

(STORY)

時は現代。
日本が国際市場で欧米企業相手にブイブイ言わせていた頃、そのご相伴を横から与ろうと、韓国の中小企業がこぞって日本進出を狙っていた!

韓国の貿易会社で働くヨンミ(=チョン・ジュヨン)は、女手一つで子供二人を育てているシングルマザー。
日本経済の狂った上がり調子に注目し、一攫千金を狙って日本支社へ単身で転勤、東京で暮らすことになった。

冷静な日本人ビジネスマンを相手に、ヨンミは口八丁の交渉ぶりで出来ないことを【出来る!】と断言して強引に仕事を取り、しばしば、その虚言で自分たちの首を締めることもあったが、韓国社会と韓国人に理解のある、とても優しい日本人フジタさん(=トッコ・ヨンジェ)らに支えられ、仕事の実績を積み上げて行き、遂に社長まで登りつめる。

社長になっても相変わらず強引かつ身勝手な口実でビジネスを繰り広げ続けるヨンミだったが、相手が非常識な位に寛大でお人好し、理解あり過ぎる日本企業だったからか、致命的なトラブルにはならず、彼女の会社は成長を続けてゆく。
だが、その裏には、いつも親切なフジタさんの隠れた支えがあった。

野望に燃えるヨンミは、日本の鉄道メンテナンス技術に注目し、それを自分の会社で独占して、韓国内で事業展開しようと画策する。

遂には祖国を捨て、日本国籍を取得するまでに至るヨンミだったが、彼女が進める日韓友好の共同ビジネスを妨害する最大の敵は、ほかならぬ韓国内の同胞たちだった!

やがてヨンミは、恩人フジタさんが病に倒れ、余命いくばくもないことを知る…

サイゴウ
「ソウルにある映画館の中でも、【ソウル劇場】と【大韓劇場】って、ちょっと、そのポジションが独特だよな。今は韓国の映画館群がほとんどシネコン化してしまい、実質、CGVとロッテ、シネスの三つ巴戦になっているワケだが、そのせいで、江北のヒドイ二つの老舗映画館の個性が際立っているとしたら、皮肉なもんだ」

サカモト
「【ソウル劇場】も【大韓劇場】も、度重なる改装を繰り返して、表向きは綺麗になり、昔はヤクザまがいだった従業員のマナーもだいぶマシになって来ていますが、それでも、今のソウルでは通用しない【名前だけ有名な映画館】と化して久しいです。韓国の映画ファンの間でも評判が悪い」

サイゴウ
「これらの劇場に足を向けるのは、その実体と悪評を知らない、もしくは気にしない外国人とか田舎の年寄りばっかり、みたいな印象があって、昔の栄光は微塵もないように思える。特に【大韓劇場】は、あのイカれた【韓流ブーム】の際、日本人相手の【ぼったくりイベント】によく使われていたよな。そうした悪質な映画館が、今もソウルの一等地でずりずりと経営を続けているのは解せないんだけど、その代わりというのもなんだが、昔のソウルの映画館の雰囲気を、良くも悪くも残していたりする」

サカモト
「それでも、出来る限り行きたくない映画館の代表格ですけどね」

サイゴウ
「その代わり、これらの劇場は、韓国映画界の古いネガティブな勢力と繋がりがあるらしく、韓国内の配給網から完全にはみ出した、インディーズ系劇場ですら掛けてくれないような、珍作、奇作が突然上映されることがあって、そこだけは、唯一侮れない映画館でもある」

サカモト
「宗教団体の傘下に入った【FILM FORUM】にも、そんな傾向がありますけどね」

サイゴウ
「今回紹介する『第4イノベイター』も、何の前置きもなく【ソウル劇場】で上映が始まって、短期間で終了した映画なんだけど、ホント、素性の分からない謎の映画だよ」

サカモト
「映画で描いていること自体は真っ当なんですが、今頃何が目的で製作され、何のために上映されたのか、さっぱり分からない内容です。娯楽系でもないし、アート系でもないし、強いて言えばなんらかの【啓蒙系】。映画のことを全然知らないお金持ちが気まぐれで映画製作に乗り出したのはいいものの、上映してくれる劇場が見つからなくて、コネで辿り着いたのが【ソウル劇場】だった、みたいな感じですか」

サイゴウ
「客から銭取って見せるような映画じゃないよな。個性的な珍作ではあるけれど…博物館とかパビリオンでよく掛かっている【企業アピール物】もしくは【社会科の教材】といった感じの内容。しかも、演出がえらく古臭い。まさに1970年代から1980年代にかけての【韓国映画スタンダート】といったスタイルなんだけど、これって、2014年の作品なんだぜ。まるで過去から壊れたタイムマシンに乗ってやって来たような映画」

サカモト
「最近の若手クリエイターに【同じようなテイストで撮ってみろ!】といっても、難しいでしょうね」

サイゴウ
「監督のハン・ミョングという人物も調べてみたけど、素性がよく分からない。元々は俳優で、1980年代には結構活躍していたらしく、エロ映画も撮っている。『第4イノベイター』の前、2007年に一本、監督作が公開されているけど、オレ知らねーぞ」

サカモト
「監督のハン・ミョングという人が、韓国映画界で最も活躍していた時代を考えれば、今回の『第4イノベイター』が、【腰を抜かすくらい】古臭いのも、ちょっとだけ納得なのですが、それでも何が目的で作られたのか、さっぱり分からない映画であることには変わりません」

サイゴウ
「1980年代の韓国映画って、韓国内でも、その実体がちょっとブラックボックスみたいなっているところがあって、その闇を『第4イノベイター』にも感じた。しかも、上映したのがソウルでは【ソウル劇場】だけだった、というのが怪しさを倍増させる」

サカモト
「映像がえらく安っぽくて、TVドラマよりチープですし、唐突な展開と、尻切れトンボの不可解な結末は、昔の児童向け特撮映画『勇者 パンダル仮面』(용사 반달가면)を思い出しましたよ」

サイゴウ
「もしかして、1970年代から1980年代にかけての韓国映画って、こういう作劇がスタンダードだったのかな?そう考えると映画史的には面白いけど…」

サカモト
「日本と韓国の関係を真面目に描いていることはありがたいのですけど、今の観客にこういうものを見せても【なにこれ?ポッカーン】でしょうね。それに、わざわざ東京その他でロケをやっているのに、全然見せ場になっていない」

サイゴウ
「日本の鉄道メンテナンス技術を、韓国企業に提携するエピソードを介して、日韓ビジネス史を描いた話だから、日本や日本人がバンバン出てくるのは不思議じゃないけど、時代感が物凄くズレている。おそらく、この映画を画策した中心人物は、日本と仕事上の強い関係をかつて持っていて、最近の険悪な日韓関係を憂いたあまり、『第4イノベイター』を製作したんじゃないかと疑っているんだけど、集まったスタッフがロートル過ぎて、結果的に目的不明の怪作になってしまったんじゃないのか?」

サカモト
「【日韓お互いに仲良くやって行けるんだぞ!】とか、【韓国人は日本をバカにしてはいけないぞ!】みたいなメッセージは確かに感じますけどね。といっても、韓国側からの偏向した一方的なものですけど…」

サイゴウ
「でも、今頃そんなことをやったって、誰も観ないし、劇場でも掛けられない。それが、【ソウル劇場】での年末ドタンバ限定公開だったんじゃないのか?あくまでも推測だけどな」

サカモト
「この映画をあえて褒めるとすれば、日本人と韓国人の仕事のやり方や、気質の違いみたいなものが、よく出ていた点だと思います。特に、ヒロインのいい加減な通訳と調整役ぶりは苦笑してしまいました」

サイゴウ
「韓国側担当者が出来もしないコンテナの納品を、調子に乗って安請け合いしてしまい、韓国に戻ったらやっぱり自分たちのところでは出来ないので、他の同業者を探して右往左往、というのはありがちな【韓国パターン】だな」

サカモト
「日本のクライアントに【自分たちの企業は小さいから、他の韓国大手と違って小回りが効くんです!】って、一方的にがなりたて、それを日本の担当者は黙って我慢強く聞いているという様子もそうですね」

サイゴウ
「現実的には、日本と直接取引をしている韓国の担当者は、ちゃんと日本側に敬意を以って、それなりに真面目に商売をやっているし、この映画でも、そこら辺は同じなんだけど、そういう韓国企業に対して、外野からチャチャ入れて足を引っ張っているのが【当の韓国人だった】というオチも笑えたよ」

サカモト
「そんなことばかり繰り返しているので、ヒロインは日本国籍取っちゃったのじゃありませんか?自分たちの首を締めている同胞連中に呆れてしまって…シナリオ作りには、当事者に近い人がアドバイスしていたのではないでしょうか?」

サイゴウ
「韓国と取引した経験のある日本人なら、この映画を観て、ますます韓国が嫌になっちゃうかもしれないな。そういうリアルさはある。ヒロインが日本語通訳から業界に入って実績を積み、やがて会社社長に成り上がって、最後は日本に帰化してしまうという展開も、それほど荒唐無稽じゃないだろう。ただ、それって、今の韓国社会では【それって、韓国人としておかしいだろ!この親日野郎め!】みたいに攻撃されちゃう部分でもあるので、映画の舞台になった時代と今は別物だと意識して鑑賞しないと、危ないよな」

サカモト
「一応、ひと昔の話であることは説明されていますけど、時代考証が徹底していないので、【あれれ、いつの時代の話?】みたいになっていますからね。素性不明の韓国映画ですから、仕方ないですけど」

サイゴウ
「でも、そのチグハグさとトンチンカンぶりこそ、この映画が怪作の怪作たる所以でもあるし、分かる人にはキッチュな面白さがあるとは思うけどな」

サカモト
「キャスティングは爺さん、婆さんばかり。唯一映画前半部でヒロイン役を演じたチョン・ジュヨンという人だけが、そこそこ若いんですが、どこの誰やら素性の分からない女優だったりします。それも、この映画の持つ【謎】の一つ。そして、後半部ヒロインを演じたチョン・ラモも、同じく【謎の女優】だったりします」

サイゴウ
「世間で顔が知られている俳優は、おそらく、【サイトウさん】演じたトッコ・ヨンジェくらいじゃないの?チョン・ジュヨンやチョン・ラモの二人については、【日本語が出来る】という安易な理由で選ばれただけ、みたいな感じもするし、そういうキャスティングの仕方は実際あるからな」

サカモト
「おそらく、この作品が今後、陽の目を見ることはまずあり得ないと思いますので、奇跡的に映画館で観ることができたということについては率直に喜びたいと思いますけどね」

サイゴウ
「まあ、こういう【日韓友好バンザイ映画】は今後の韓国で、ますます作られなくなるだろうし、作っても公開されなくなるだろうから、そういう意味でも、『第4イノベイター』の上映は、珍アクシデントだったのかもしれない。2000年以降に製作されて公開された韓国映画の中でも屈指の【ヘンな映画】であることは間違いないだろうな」

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『クオバディス/神は何処へ行く』(2014)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『쿼바디스』
(2014)
★★★+1/2★
(韓国一般公開 2014年12月10日)

英語(というかラテン語)題名
『QUO VADIS』

日本語訳題名
『神は何処へ行く』

勝手に題名を付けてみました
『ここに神様はもういない』

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製作・配給 단유필름

(STORYというか概要)

キリスト教系宗教団体が大利権組織として君臨する韓国社会。

ソウルの一等地には巨大な教会が次々と建設され、その様子はまるで要塞だ。

教会経営者の懐には、信者たちから巨額の資金がもたらされ、それが転がされることで、さらに教会は利権団体として肥太ってゆくが、同時に、金と教義、権力を盾にした牧師たちの不正と教会組織の腐敗が進行し、教会として、本来の目的を失いつつあった。

その酷い実態を取材すべく、アメリカからマイケル・ムーアと名乗るドキュメンタリー監督(=イ・チョンユン)が韓国を訪れる。
そして、彼を見守るかのようにイエス・キリスト(=ナム・ミョンリョン)も地上に再降臨するが、彼が韓国の教会を見る目は冷たかった…

韓国ドキュメンタリー映画の異端児、キム・ジェハンが猛烈な皮肉を込めて、現代韓国教会事情を描く。

サイゴウ
「TV番組の出来レースを面白おかしく告発した『トゥルーマン・ショー(트루맛쇼)』のキム・ジェハン監督が、韓国キリスト教団体の問題をドギツく揶揄したドキュメンタリーなんだけど、マジで面白かったな」

サカモト
「マイケル・ムーアのパロディが酷く陳腐なので、最初はゲンナリしてしまうのですが、そのチープさも、おそらくは演出の内だったのでしょうね」

サイゴウ
「韓国のキリスト教系宗教団体って、いわば【不可侵の怪物】なんだけど、中身は結構お粗末な組織だったりする。そのことを、敢えてチープなパロディの手法を取ることで、完全におちょくっている、って感じだな」

サカモト
「韓国の巨大キリスト教系団体は、一般の中道リベラル派市民からすれば、忌むべき悪の象徴でもあって、毛嫌いする人も多いんですけど、その理由は、この映画を観ると、よーく分かります」

サイゴウ
「ただ、それらのメガ・チャーチを批判したり嫌う人がたくさんいる反面、一途な信者も同じく大勢いて、結果、お布施という名の巨額な資金が絶えず流れ込むから、一部経営者が潤ってしまう。それが原因となって、韓国の教会は大なり小なり、不正資金だとか性犯罪なんかの温床になっている事実が、この映画では描かれている」

サカモト
「まず、ソウルの一等地に建設された巨大な宗教施設の不自然な様子が笑わせてくれますが、韓国のキリスト教嫌いな観客からすれば、不愉快で腹が立つでしょうね」

サイゴウ
「それだけ韓国では信者が多く集まる、ということでもあるし、一部施設は聖職者の教育施設も兼ねているだろうから、ある程度の規模になるのは分かるんだけど、あそこまで巨大化しちゃうと、韓国ゼネコンと韓国系キリスト教団体、癒着の象徴みたいでもある。あそこまで凄くはないけど、日本の韓国系教会もデカくなる傾向はあるよな」

サカモト
「人によっては、【韓国ゼネコン≒韓国政財界】と教会が癒着している図式にも見えるでしょうね」

サイゴウ
「韓国のキリスト教が日本のそれよりも胡散臭く感じられる理由には、ああいう権力と見栄の塊のような施設をバンバン作っていることも一つあると思う。あれって、【表では愛と平等を謳っているくせに、実際は単なる銭と権力の利権団体だろ】って言われても仕方ないものだ」

サカモト
「劇中、故オク・スンハン元老牧師が内部批判派の象徴として、ちょっとだけ出てきますが、彼がトップにいた某教会は、韓国を代表するメガ・チャーチの訳ですから、なんだか矛盾していて、皮肉ですよね」

サイゴウ
「冒頭出てくる江南の巨大教会は、その某教会の建物だし」

サカモト
「韓国のキリスト教はカルト化しやすいというイメージもありますが、その具現化のようにも見えます」

サイゴウ
「地下鉄内で撮影された【不信地獄信者のオバさんが、仏教のお坊さんを攻撃するの図】も、その分かりやすい例だな。観ていて笑ってしまったが…聖職者による性犯罪が絶えないのも、カルト化というところに原因があるんじゃなかろうか」

サカモト
「もちろん、そうではない真摯な人たちも大勢いますけどね。最近、韓国内でカトリックの再評価が高まっているという話を聞いたのですが、それは、韓国系プロテスタントの醜聞が続いていることも反映していると思いますよ」

サイゴウ
「カトリックはバチカンが聖職者の好き勝手を厳しく管理しているから、プロテスタントよりも問題が起こりにくい、表面に出にくい、という事はあるだろうな」

サカモト
「結局、真面目な聖職者や信者にしわ寄せがいってしまうことになる訳ですけど、韓国で製作される他のキリスト教系ドキュメンタリーでは、教会独特のそうした黒い問題を一切語りません。なにせ、映画の目的が自派の布教ですからね」

サイゴウ
「聖職者と信者とその行いは、【ひたすら美しく、そして立派】というのが、その手の映画では定石、お約束」

サカモト
「でも、今回はトンデモといっていいくらい、そうした事とは真逆です。『QUO VADIS』が面白かった理由は、韓国ドキュメンタリー映画として【稀】といっていいくらい、露骨に韓国系キリスト教団体のあり方を批判していることにあったと思います。でも、基本姿勢はキリスト教自体を否定している訳ではなく、むしろ逆説的に擁護していたのではないでしょうか?」

サイゴウ
「韓国系キリスト教の未来を【壊滅する】とは言わないで、【タイタニック号の沈没】に例えていたのは、そんな意図の現れかもしれないな」

サカモト
「映画の中でおちょくりの対象になっているのは、やっぱり団体の上層部と、それに踊らされる一部信者ですからね。劇中、偽マイケル・ムーアと共に具象化したイエスがMCやっていますけど、あれも信者を馬鹿にしている訳ではなくて、【神の子自身が韓国のキリスト教界を危惧している】という構図なのでしょう」

サイゴウ
「でも、あのイエスは、ちょっとあざとすぎたけどな。演出として理解できるけど、観ていて抵抗も感じた」

サカモト
「劇中、汚職や性犯罪の加害者である実在聖職者の名前をがんがん挙げておちょくっていますが、あれも個人攻撃というより、検挙を免れて隠れている連中や、それを保護している上層部への暗喩的批判だったと思います」

サイゴウ
「結局、罪は宗教にあるのではなく、それを司っている人間にある、という理屈なんだろう。ただ、それ自体はありがちな結論だし、それにしか映画の方向を持って行けなかった歯がゆさはあった」

サカモト
「かといって、特定宗教団体とか、幹部個人を名指しで執拗に攻撃しても仕方ないですし…偽マイケル・ムーアと嘘臭いイエスを狂言廻しに使ったのも、そういう意図があったからなのではないでしょうか」

サイゴウ
「まあ、全編お安いコメディ仕立てなのは気になったけど、意外とよく練られた作品だったのかもしれない」

サカモト
「日本人にはよく分からない韓国キリスト教事情を知る上で、興味深い内容だったと思います」

サイゴウ
「近頃、韓国で量産されているキリスト教系ドキュメンタリーとも併せて観て欲しいよな。そうすれば、さらに色々と発見があると思うよ」

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『春夏秋冬ロマンス』(2013)★★★+1/2★ [韓国映画]

原題
『춘하추동 로맨스』
(2013)
★★★+1/2★
(韓国一般公開 2014年12月4年)

英語題名
『Men and Women』

日本語訳題名
『春夏秋冬ロマンス』

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(STORY)

秋、夏、冬…(※)
それぞれの季節に起こった、中年男女、恋の顛末。

『紅葉狩り団結大会/단풍맞이 단합대회』
秋。
山嫌いのウギ(=イ・ウンジェ)は先輩サンボム(=チョ・ソッキョン)に連れられて、郊外へハイキングに出掛ける。
ウギは、片思いのスジン(=チェ・ウナ)が来ると聞いて腰を上げたのだが、実際はサンボムしか、いなかった。
白けた空気が漂う中、互いの恋愛観で虚栄を張り続ける二人だったが、酔っ払ったウギは、サンボムの言葉に傷つき、山頂で自殺騒ぎを起こす。
そこに、途中で知り合ったUFO信者(=イ・ジュンヒョク)が現れたことから、事態はとんでもない結末を迎える…

『ホットサマー・バカンス/핫썸머 바캉스』
夏。
若いとは言えない独身女性三人組のスジン、ヒョジョン(=イ・ミナ)、ミア(=イ・ソリム)たちは海辺のバカンスを企てる。
だが、運転手としてミアの彼氏サンチョル(=オ・デハン)が加わったことから、三人の関係に出発時点から暗雲が垂れ込み始める。
道中、些細なことから一発触発の状況に陥り、海に着けば着いたで、女達の反目は高まるばかり。
やがて、熱々のサンチョルとミアは、部屋のトイレに下痢のヒョジョンがいることを知らずに、エッチを始めてしまう…

『走れ、雪花列車/달려라 눈꽃열차』
冬。
遂にウギはスジンを旅行に誘い出す。
それは日帰り列車旅行に過ぎなかったが、ウギは彼女をものにすべく、決死の覚悟を決めていた。
だが、二人は最初から噛み合わない。
のらりくらりと田舎街を歩き、地元名産の人参と人参酒を買い求めるウギだったが、店ではカードが使えず、手持ちの現金も足りない。
何事にも煮え切らないウギに愛想を尽かした怒り心頭のスジンは、彼を置いたまま、どこかに姿を消してしまうが…

俊英オ・チャンミン監督が描く、オフビートな恋模様。

(※)本作品は四部作構想だったが、主演イ・ウンジェが急逝し、春編は製作されなかった。また、製作順に編集、公開されたため、四季の順番が入れ違っている。


サイゴウ
「最初はホン・サンス風の展開で、【なんだ、これ?またかぁ】みたいで行く先に不安を感じた作品だったんだけど、加速度的におかしさが増してきて、結果的にはマジで良かったよ。拾い物といっていいだろうし、監督のオ・チャンミンは今後、要チェックのクリエイターかもしれない」

サカモト
「基本は地味な会話劇ですけど、どういう訳か、やたらと面白いですよね。不思議です」

サイゴウ
「【ホン・サンス=ワールド】を普遍的な語り口にして、下品にすると、こんな感じになるのかも知れないけど、内容はベタだったりする」

サカモト
「いい年をした男女が【好きだ、嫌いだ】で迷うネタですからね。でも、それだけの話なのに、物語が廻ってしまう」

サイゴウ
「間の取り方やリズムが絶妙なので、観ていて飽きないんだよ。凝ったカメラワークや映像美なんかも特にやっていなんだけど、キャラクターの動かし方が上手いし、それに応えられる俳優を揃えている」

サカモト
「コメディとしては、オミョル監督作のような【おとぼけ系】ですが、もっと洗練されていて、都会的な感じがします」

サイゴウ
「決して【おしゃれ】ではなんだけど、【意図的に泥臭く偽装された洗練さ】というか…ちょっと、うまく説明できないな。おそらく、少し前のフランス映画なんかに似た感じかな?とにかく、独特だ。表向きは韓国映画にありがちな【ベタなヒューマン・コメディ】ではあるんだけど、その裏側には全然違うものが隠れている、って感じ」

サカモト
「何よりも人間観察が鋭いですよね。かなり細かい演技をさせていますけど、監督自身は【人が好き】というよりも、達観して舐めているみたいで、人を喰った視線を感じました。オ・チャンミンという人は、相当なニヒリストなのでは?」

サイゴウ
「異なる季節を背景に、全部で三部構成になっているんだけど、特に第二部の『ホットサマー・バカンス/핫썸머 바캉스』における女性同士の剣呑な戦いは、あまりにも実感こもっているので、感心しちゃった。女性からすると、相当イヤーな展開じゃないかな?車内の何気ない会話が【テメー!やるか!】みたいになっちゃうところなんかは監督の才能を感じたし、三人組の一人が腹を壊すネタは下ネタだけど大爆笑。あそこまで女性の美しくない部分を何気で描ける男性監督は、そうそういないと思うぞ」

サカモト
「この監督は、女の人のことを信用していないのかもしれませんね。女性観客からすれば、それがどこまでリアルに見えるかは分かりませんけど…」

サイゴウ
「男性については、どちらかと言えば紋切り型なんだけど、これは、映画の中で男たちに道化役、狂言回しの機能を振るための方便にも思える」

サカモト
「第一部の諍いなんて、韓国人男性気質丸出しのネタ」

サイゴウ
「まるで中坊同士の喧嘩みたいだけど、ウギと先輩に限らず、この映画に出てくる男たちって全員、絵に描いたような韓国男子キャラなんじゃないかな?」

サカモト
「男性連中が主人公に見えるようではあっても、その使い方が逆説的なので、スジンのキャラクターと行動が、最後は印象に強く残る結末になっています。結局、【本当の主人公はスジンなのでは?】と思ったのですが、フェミニズム志向の強い作品なのかもしれません」

サイゴウ
「一応、話の展開上、男の主人公はウギであり、女の主人公はスジンという割り振りをしてはいるけど、これは観客を混乱させないための建前みたいなもので、基本的には主人公不在の群像劇だったんじゃないだろうか?どの俳優もキャラが等しく立っていたりするからだ」

サカモト
「演じているのは皆知らない俳優ばかりですけど、いい味出していましたし、上手いですよね。特に、チョ・ソクヒョンはかなりいいです。出番は少ないのですけど」

サイゴウ
「彼はインパクトがあったよな」

サカモト
「スジン役のチェ・ウナは美人なのかそうなのか、よく分からない人ですけど、女性特有の可愛らしさと剣呑さが良く出ていました。そこら辺は監督の力なのかもしれませんけど…」

サイゴウ
「女優陣がみんな微妙な年齢、ルックスなのも、この映画ではプラスになったと思う。あんまり綺麗じゃないし、正直、オバさんだけど、それもまたリアル。モデル上がりの二十代使っていたら、今回のような妙に親身な笑いは生まれなかっただろうな。それに、韓国でも最近は三十、四十越えの独身って、男女共に増えているから、実はそこら辺も計算に入れた配役だったんじゃないのか」

サカモト
「中年期迎えても、男女の恋愛感情はなんら変わらないということを象徴する、絶妙なキャスティングだったのかもしれませんね」

サイゴウ
「でも、ウギ演じたイ・ウンジェが、この映画の公開前に亡くなっていて、遺作だったのは、ちょっと衝撃的だった。物語がハッピーエンドだったから、なおさら」

サカモト
「この映画観るまで、イ・ウンジェって、全然知らない俳優だったんですけど、今回いい味出していたので残念です」

サイゴウ
「彼の死を報じる最後の字幕は、ちょっとグッと来たよな。それだからこそ、なおさら印象に残る映画になったのかもしれない」

サカモト
「商業価値は低いかもしれませんが、日本で上映する価値のある韓国インディーズだったと思いますよ」

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『パーティー51』(2013)★ [韓国映画]

原題
『파티51』
(2013)
(韓国一般公開 2014年12月11日)

英語題名
『Party 51』

日本公開時題名
『パーティー51』
(2016年より日本各地で随時上映中)

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(STORY)

ソウル市・麻浦区にある「通称:弘益大前(홍대앞)」。
昔から韓国サブカルチャーの中心地であり、物書きからミュージシャンまで様々なクリエイターが集う街だ。

そこに、反骨精神と闘志をむき出しにしたインディーズ系ミュージシャンたちが集うククス&ポッサムの専門食堂「トゥリバン(두리반)」(※1)があった。

だが、大手デベロッパーと地元行政が結託した再開発計画に巻き込まれ、企業と行政の一方的な契約反故により、強制立ち退きを余儀なくされる。

権力者の横暴ぶりに憤った店常連のミュージシャンたちは、孤立奮闘する「トゥリバン」の女主人をサポートすべく、音楽を武器に立ち上がり、廃墟と化した店で連日連夜ライブとパフォーマンスを繰り広げ、時にはそこに居座るヤクザ相手に暴れることも厭わなかった。

やがて、この「トゥリバン強制立ち退き事件」は「小龍山事件」(※2)と称され、社会的反響を呼び起こしてゆく…

実際に起こった食堂の強制立退き事件を巡る【経営者&ミュージシャンたち】VS【財閥企業&行政】の戦いを軸に描く、韓国カウンターカルチャー群像。

(※1)「トゥリバン」= 現在は場所を変えていますが、地下鉄2号線『弘益大駅前』某出入り口から6、7分のところで営業中。結構美味しいです。

(※2)「龍山事件」= 龍山駅周辺の再開発事業を巡る、強権的な撤去執行が原因で死者を出した事件を指す。李明博政権以降の韓国における【行政と司法、財閥の癒着と横暴】を象徴するアイコンになっている。


サカモト
「グタグタでダラダラの構成なので、正直、10分観ただけでウンザリ、飽きてしまう作品でした。【弘益大前系スタイル】とでも言うべき独特の雰囲気はあるのですが、普遍的な内容ではないと思います。悪く言えば、単なる【内輪ウケの世界】」

サイゴウ
「扱っているテーマは極めて韓国でありがちな問題を取り上げているし、描いている対象が主流とはいえない連中なので、その対比が興味深いんだけど、膨大な素材を強引にまとめ上げたのはいいものの、うまく化学反応が起こらなくて、グチャグチャのままでオシマイ、みたいなドキュメンタリーになっている」

サカモト
「こういうカオスなスタイルを韓国のドキュメンタリーでは時々見かけますけど、観客としては【ちょっと、どうなのかな】みたいに感じましたね。うまく転べば、魅力的なコラージュになる場合もありますが、今回は素材の自己主張が強すぎて、てんでバラバラ。みんな絶叫しているだけで、全体のイメージが繋がりません」

サイゴウ
「逆にドキュメンタリーじゃなくて、劇映画として作ったら面白いネタだとは思ったけどな。そうすれば、社会的なテーマも、角が立ったキャラクターも、きちんと書き分けて語ることが出来たと思うよ。だって、この映画が目指していることは基本的にブロックバスターでコケた、『明日へ(카트)』と変わらないだろ?」

サカモト
「『パーティー51』はブロックバスターの『明日へ』と違って、市井の有志から製作費を募ったインディーズ、公開後は映画の著作権も利益も公平に分配するという実験的なシステムで製作された第一弾らしいので、どちらかというと【社会運動の一端】と考えた方がいいのかもしれません。でも、それなら尚更、ドキュメンタリーではなくて、劇映画のほうが良かったような気がしますけどね…」

サイゴウ
「比較的安上がりで済むドキュメンタリーであっても、【製作はこれが限界】みたいな状況で、この作品は製作されたのかもしれないな。映像としては相当気合が入っていたと思うし、なかなか衝撃的なシーンもあるんだけど…そこら辺の労力を思うと、結果的には勿体無い気もする」

サカモト
「仮に興行面で爆発的なヒットをすればしたで、どうせ【俺や私にも金よこせ!】的な内紛問題が起こるでしょうし…」

サイゴウ
「映画の投資で公平な分配なんて、やっぱり【絵に描いた餅】だとは思うけどね。もちろん、有志から募るやり方は否定しないけどな」

サカモト
「大手に依存していない分だけ、映画は割りと自由に作られていると思うのですが、それもまた、この作品のネックになっているのではないでしょうか。【小さい龍山事件】と呼ばれた弘益大前のククス屋を巡る大騒動というか、地元市民たちの反権力運動を描いている訳ですけど、やはり、普遍的ではないと思うのですよ。こういう映画を観て喜ぶのは、やはり、斜め志向のクリエイターや映画ファン。事件の当事者に近い普通の人達は観に来ないと思いますし、仮に観に来ても、【訳のわからない若い連中が勝手にガチャガチャやっているだけ】みたいな、共感し難い作品だったような気がします」

サイゴウ
「どこに映画としての【かなめ】を置くかということなんだろうけど、今回は【弘益大前系インディーズ・ミュージシャン】を全面に出しすぎたきらいはあるよな。彼らが音楽を武器に行政や財閥相手に戦いを挑んでいる姿は頼もしいけど、【おまえら、本当は無責任に騒いでいるだけだろ!】って言われても、否定出来ない面があると思う」

サカモト
「それに、【弘益大前系インディーズ・ミュージシャン】自体が、やっぱり、【特殊】な存在だと思いますしね。日本で大手メディアが一方的に垂れ流している、【K-POP】を韓国サブカルチャーの主流だと思い込んでいる人には、尚更、理解し難いと思いますよ」

サイゴウ
「彼らが奏でている音楽も【なんだかな~】だしな。ライブでワイワイ騒いで聞くには【あり系】の音楽なんだけど、単体で聞くような曲じゃないし、パフォーマンスもショボイ。だから、最初は面白いんだけど、すぐに飽きちゃう」

サカモト
「彼らにとって攻撃対象の一つである、某大手建設会社のヘルメットを被って演奏している姿は笑えましたけどね。ああいうストレートさは韓国のいいところなのですけど、ちょっと今の日本では【ああいうのはどうかな?】みたいなのはありました。無責任に世論を煽ろうとしている、一部韓国愛国者連中の【독도도 대마도도 규슈도 우리 땅!】と同じ理屈にしか見えなかったりするのが、正直なところです」

サイゴウ
「日本では音楽と政治を結びつけることが、ちょっとタブーみたいになっている所があるけど、韓国はやっぱり、そこら辺が昔から率直。だから、主張の【いい、悪い】は別にして、韓国の一般市民が持っているリアルな政治感覚がよく分かる一例かもしれないけどな」

サカモト
「【弘益大前系ミュージシャン】は決してメジャーではないし、韓国でも少数派だとは思うのですけど、日本で例えれば、新宿や吉祥寺のライブハウスで活躍している連中が、大手企業や政府をおおっぴらに攻撃しているようなものですか」

サイゴウ
「でも、その【素直な過激さ】が、この映画をどんどん、面白くないカオス状態にしていて、テーマがどこかに飛んでしまっている結果になっているんじゃないか?この映画で描こうとしたテーマって、地域再開発では必ず起こる、【大手企業による、弱者いじめ問題】という普遍的な社会問題でもあるワケだから、そこら辺をもっと理知的に緻密に描いて欲しかった」

サカモト
「【小さい龍山事件】だとか、【두리반,두리반!】って、いくらがなりたてても、当の韓国人だって、実は何のことやらよく分からない人はいるでしょうしね」

サイゴウ
「この作品も、肝心な問題提起が【みんな承知の事実、オレたちの常識は世界のスタンダード】という、よくある韓国式前提で語られているんだよな。なぜ、地元ミュージシャンらが【두리반】というお店をここまで慕うのかについては、関係者じゃないと理解し難い部分がある。これって、実は致命的な欠点だったと思うよ」

サカモト
「大手と行政が地元の一市民をなめてかかったら、予想しなかった【大型地雷を踏んでしまった】という展開は、物語として非常に面白いのですけど、【두리반】の女主人の戦いとミュージシャンたちの生き様が、実は【水と油だったのでは?】なんていう疑問も感じます。両者を対等に描こうとしたところにも、無理があったのかもしれません」

サイゴウ
「結局、【두리반】を巡る戦いは、映画の単なる【客寄せ】ネタでしかなく、韓国における自由人たちの、ある意味【ジコチュー】な生き様を描きたかったのかもしれないけどな」

サカモト
「最初から最後まで【두리반!두리반!두리반!두리반!두리반~♪】ばかり…」

サイゴウ
「とりあえず、【弘益大前、大好き】だとか、【두리반ファン】のための奇特なドキュメンタリーということにしておこうか。この映画を観て【두리반】に興味を持った人は、とりあえず行ってみてね。あんまり遅くまで営業していないけど…」

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『ひと夏のファンタジア』(2014)★★ [韓国映画]

原題
『한여름의 판타지아』
(2014)
★★
(韓国一般公開 2015年 6月11日)

英語題名
『A Midsummer's Fantasia』

日本公開時題名
『ひと夏のファンタジア』
(2016年より日本で順次上映中)

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(STORY)

(第一部/モノクローム)
奈良県山にある五條市。
歴史ある古い街だが、過疎化を免れず、昼間でも人影はまばらだ。

ここで映画を撮ろうと画策する映画監督キム・テフン(=イム・ヒョングク) は、助監督兼日本語通訳のパク・ミジョン(=キム・セビョク)を連れて、街とそこで暮らす人々、五條市の歴史について取材を始める。

市の観光課に勤務する男性職員ユウスケ(=岩瀬亮)案内の元、様々な人々にインタビューを重ねて、メモを取るテフンとミジョン。

ユウスケの話によれば、韓国人がこの街にやって来たのは、今回が二度目で珍しい事だと言う。
だが、ユウスケは地元出身ではなく、東京から移住した人間だ。

韓国に帰る前夜、不思議な夢で目覚めたテフンは、五條の夜空を見つめ続ける…

(第二部/カラー)
真夏の五條市に、韓国人女性(=キム・セビョク)が独り、ふらりと訪れる。

駅の案内所で道順を訪ねている彼女に、一人の日本人男性(=岩瀬亮)がやって来て話しかける。
彼は地元で農家を営んでおり、柿を生産しているという。

宿まで送ると申し出てつきまとい、自分が作っている干し柿菓子を嫌がる彼女に押し付け、「街を案内する」と言い残し去ってゆくが、それが異常にしつこいアプローチの始まりだった。

彼女は、韓国でプライベートな問題を抱えており、放って置いて欲しかったが、あまりにしつこい男の攻勢に負けて、翌日、五條の街を一緒にぶらぶらすることになる。

彼女が帰国する前日、男は彼女に想いを打ち明け、二人は長いくちづけを交わす…

現実と夢が混沌と並列する空間に迷い込んだ韓国人が体験する、真夏の幻想劇。

サイゴウ
「娯楽作とは程遠い、作家性バリバリの退屈作だけど、決して悪くない。一応、日韓合作だけど、クリエイターの交流から生まれた無欲さが感じられる、心地いい映画だ」

サカモト
「【日韓合作の原点】に戻った作品かもしれませんね。日本と韓国が一緒に作るならば、こういう、いい意味で【分かりにくい】物語が主流であるべきだったのかもしれません。本来ならば…」

サイゴウ
「ただ、商売にはならないし、金を落とさないから、映画を投資対象としか見ない人には、理解されないだろうな。だから、今時分こういう【日韓合作】がちゃんと形になって公開まで漕ぎ着けたことは、奇跡に近かったのでは?」

サカモト
「奈良の五條市が舞台になっていることについては、【なんで?】と言う人もいるでしょうが、映画の成り立ちを思えば、これは一種の【導き】であり、【運命】だったと思います。五條市である必然性がどこにあるのか、と聞かれたら、【大人の事情でしょう】としか、私的には答えられませんけど…」

サイゴウ
「でも、インディーズ作品、特に海外との合作って、【偶然】や【運命】に【必然】が導かれて成り立つモンじゃないのかな?奈良国際映画祭がなければ、五條市を舞台にした韓国映画なんて、永久に作られなかっただろう。それに、チャン・ゴンジェ監督としては、【異郷・五條市】はインスピレーションが湧く街だったんじゃないのかな」

サカモト
「【奈良県の五條市】と言ったら、ほとんどの韓国人には何のことやら分からないでしょうし、ああいう古い街が京都と奈良以外、日本に存在する事自体、彼らにとっては想像外の驚きだったりしますからね」

サイゴウ
「でも、五條市についての知識はオレも似たようなもんだから、そこら辺はあんまり言えないけどな」

サカモト
「最近は情報がマルチで簡単に入りますし、日本にコアな目的でやって来る韓国人も増えているので、めちゃくちゃなことを偉そうに言う人は昔より少なくなりましたけど、まだまだ、日本そのもののイメージがえらく偏っていますから、【奈良】までは何となく分かっても、【五條市】って言われたら、全くイメージが湧かない人がほとんどだったと思いますよ。それ故、逆説的な新しい視点で、五條市を舞台にした作品が撮れたのではないかと…」

サイゴウ
「五條市について【全くイメージが湧かない】って、オレもそうだよ。ただ、韓国でも地方の街をぶらぶら歩いていると、ごく普通の街の風景が、やたらファンタスティックに見えて、【ここで映画を撮りたいなぁ】と思うことはよくある。基本的には韓国の田舎町も日本のそれと大差ないんだけど、空気感とか陽の光とか、匂いとかが五感を刺激するんだよな。今回の作品も、そういう感覚から生まれた映画だったんじゃないだろうか?」

サカモト
「柿農家の日本人青年が韓国からやって来た女性に街をダラダラ案内するシーンがありますけど、あそこら辺はその【五感を刺激する】感覚から生まれたであろう、名シーンだったと思います。一見大したことのないシーンですが、妙なデジャブ感に満ちている」

サイゴウ
「でも、案内する日本人青年は変質者みたいで気持ち悪かったけどな。相手の韓国人女性も形式的に日本語しゃべっているだけだし、可愛くもないし美人でもないし…オレはこの二人のキャラがあまり好きじゃない。でも、真摯で紳士な韓国人監督が街をうろうろするシーンはいいよね。あそこら辺、ちょっと共感できる。五條市は古い土地柄か、立派な木造建築がビシッと並んでいたりするんだけど、人が全然いない。でも、荒廃しているワケでもなく、モノクロにするだけで非現実感が漂っていたりして、それがタルコフスキーの『ストーカー』やゴダールの『アルファビル』を、どことなく連想させた」

サカモト
「画面に漂う五條市の持つ【奇妙感】というか、【オルタネイティブな感覚】が、チャン・ゴンジェ監督の狙いだったのか、ああなっちゃったのかは分かりませんけど、ちょっと、注目かもしれません。今までの日韓合作では見なかった感性だと思います」

サイゴウ
「銭と政治が目的の合作じゃ、出来なかった感覚だろう。オレ的には【今頃、日韓合作映画なんてやっても意味ない】と思っていたんだけど、こういう作品に出会うと、【インディーズならば、まだちょっとだけ可能性があるのかもしれないな】なんて、期待しちゃったりもする…といっても、そういう映画は仮に作っても概して陽の目を見ないだろうけどね」

サカモト
「でも、その【陽の目を観なくてもいいじゃないか】という志が、【韓流ブーム騒動】以降の日韓合作では、一番失われてしまったものだと思うのですよ。もちろん、映画も商売、売り物ですから、利益が出ないことを続けることは出来ませんけど、今回のように【天然な無欲さ】を感じられる日韓合作が時折出てくるようになれば、ちょっとだけ、これから面白くなりそうな気も…?」

サイゴウ
「【それもどうかな?】だけどな。オレ的には韓国映画界は当分の間、日本を無視して作品を作るべきだし、日本側も出資なんか止めて、距離を置くべきだと思う。そういう【関係が切れた時期】を一度経てこそ、汚いプロパガンダに満ちた日韓合作から脱することが出来ると思うんだが。【日韓友好】だとか【未来志向】だとか【歴史認識】だとか、そういう腐った匂いがする限り、【日本と韓国は合作なんて、やめちまえ!】というのがオレの本音なのよね」

サカモト
「韓国映画も長年、マイナーかつ【ガラパゴス】だったから、今までやって来られたのかもしれませんし…」

サイゴウ
「もっとも、そんなことを自己陶酔している韓国の一部連中に言っても、【我々は日本とは違う】って、鼻先で笑われるだけだろう。でも、【ガラパゴス】ってことは悪いことばかりじゃないし、【グローバル化】なんて言葉にすぐ踊らされる奴らに、素敵な映画は作れないと思うよ」

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『インサイダーズ/内部者たち ジ・オリジナル』(2015)★★ [韓国映画]

原題
『내부자들 디오리지널』
(2015)
★★
(韓国一般公開 2016年12月31日)

英語題名
『Inside Men The Original』

日本語訳題名
『内部者たち ジ・オリジナル』

130分版日本公開時題名
『インサイダーズ/内部者たち』
(日本一般公開 2015年3月11日)

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韓国で2015年11月19日に公開された『내부자들디』(130分)ではなく、延長版180分の『~오리지널』について記載しています。
(STORY)

大統領最有力候補と目される政治家チャン・ピル(=イ・ギョンヨン)と大手財閥オ会長(=キム・ホンパ)の間で不正取引が行われており、それを韓国最大手新聞社局長イ・ガンヒ(=ペク・ユンシク)の情報操作で世間の目を欺いていた事実が、突如、無名のヤクザによる記者会見で明らかにされた。
彼は、これみよがしに義手を外し、権力者たちの悪辣ぶりを訴える。

そのヤクザの名は、自称・芸能プロダクション社長のアン・サング(=イ・ビョンホン)だ。

サングは一介のチンピラから身を起こし、政財界の性接待に女性たちを斡旋して利益を得ていたが、サングを慕う事務所の女優チュ・ウネ(=イ・エル)を使って得た情報を盾に、ピルたちを脅迫したことから、財閥の秘密エージェント、パク課長(=チョ・ジェウン)に拉致され、麻酔なしで片手首をノコギリで切断、薬漬けの廃人にされたのだった。

復讐に燃えるサングは一時身を潜めていたが、検察庁の鼻つまみ者で武闘派の検事ウ・チャンフン(=チョ・スンウ)と手を組み、チャン議員とオ会長、イ局長への報復を企んだのである。

だが、チャン・ピルら三人は、その程度で揺らがなかった。

イ局長はサングたちの隙を突き、自紙を使って世論操作を行い、マスコミの関心を封じてしまい、検察庁の勅命も部長検事(=정만식)らの世間に向けたポーズにしか過ぎなかったことが明らかになる。

サングは秘密エージェントから再び命を狙われ、ウネは彼を庇って消されてしまう。
チャンフンも、田舎に住む父親(=ナム・イルオ)の安全を脅迫され、事件から手を引くことを余儀なくされる。

こうして世紀の大スキャンダルは、世間から抹殺されて、忘れられてしまうかのように見えたが…

敵対する立場でありながら、闘いの中で次第に同士関係を築いてゆく、サングとチャンフン。
追い詰められた男二人の再リベンジが始まる。


サイゴウ
「『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の派手な国際マーケティングを差し置いて、2015年末の韓国における映画興行を制したのが、まあ、この作品だったのかな?まず、11月に通常の130分版が公開され、その後、ロングヴァージョンの180分版が公開されたワケなんだけど、両ヴァージョンともちゃんと客が入っていたので、かなり注目されていたんだろう。だけど、なんかズルいやり方だよな。それに、この作品って、ある思惑を持った連中が、映画という手段で、敵対する特定個人への攻撃と世論操作を画策したように見えなくもない。そのことで誰が一番得するのかは知らないけど、そういう暗黒面を持った映画でもあることを、観客としては疑問の目を持って観るべきでもあるんじゃないだろうか?」

サカモト
「『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の韓国における反応については、想定内でしょうね。韓国の配給がもっとスムーズに出来れば、もう少し動員数(※)は行ったとは思いますが…『インサイダーズ/内部者たち』については、130分版が約700万人、180分版が約200万人、合計900万人超えの観客動員数ですから、商売としては大したものですが、二つのヴァージョンを連続公開するという姑息な方法を取らないと、投資者に提示した数字を見込めなかった、ということなのかもしれませんよ。ここ最近、韓国では1000万人行かないとダメ、みたいな雰囲気がありますけど、本来なら『インサイダーズ/内部者たち』は、500~600万人動員程度のヒットが妥当な内容だったと思います。でも、李明博政権以降の韓国は、とにかく権力者や金持ちに対する庶民の怒りと妬みが蔓延していますから、軽薄な浮遊客層向けの映画として、うまく需要に嵌ったのかもしれません」
(※)毎度おなじみ、KOFICの資料によれば、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の観客動員数は3,273,854人となっている。

サイゴウ
「今の韓国、特に若い層は社会主義を口先では馬鹿にしている割に、自覚しない内に過激な左派に取り込まれて【左寄り】なって来ているんじゃないかと思うんだけど、そういった韓国社会の【灯台元暗し】な部分を、映画界のあざとい商売人が上手に利用して、純朴な観客たちをカモにするという構図が出来ているんじゃないのか?」

サカモト
「でも、私の周りでは誰も観ていませんでしたけどね。良識を持った韓国の大人たちにとっては、それほど魅力のある映画ではなかったのかもしれません。それに主演が主演なので、コアな映画ファン層に敬遠されていたのではないでしょうか?」

サイゴウ
「映画における露骨な特定個人の中傷誹謗ネタについては、まあ、韓国の伝統かもしれず、韓国人にとってはごく当たり前の事なんだろうけどな。2012年に韓国で公開された『26년』でも、全斗煥元大統領への悪意に満ちたイジクリは笑っちゃうくらい酷かったけど、衝撃的なラストが秀逸だったのでファンタジーとして済ませられた。だけど、『内部者たち/インサイダーズ』の方は、2013年に公開された盧武鉉先生バンザイな『변호인』同様、全く笑えなかった。今回は朴槿恵政権の裏にいると噂のボスキャラ連中を批判しているようにも見えるんだけど、あまりにも剣呑だよ。これって色んな意味でヤバくないか?体制批判は大切だけど、これじゃネットの中傷誹謗と同じ。近い内に安倍晋三や産経の元ソウル支局長をモデルにした人物が登場してコテンパにされる、【日本と日本人をやっつけろ!】映画が作られるんじゃないのか?」

サカモト
「日本の作品に例えるならば、『仁義なき戦い』から始まった実録ヤクザ物を、現役の経済人や政治家、マスコミ人を使ってやっているようなものでしょうからね。【表現の自由度が高い】という見方も出来ますが、だからといって、韓国映画が日本映画よりも、どこまで【言論、表現の自由】に対して忠実なのかは、やはり疑問ですけどね…」

サイゴウ
「韓国内の稚拙な不満分子につけ込んだ商品と言われても仕方ないよな。『内部者たち/インサイダーズ』のような作品がヒットすることで、それが別の権力者を利することになるかもしれない事を、やっぱり忘れちゃいけない。もちろん、映画のモデルになった誰かさんたちを庇護するつもりも全く無いけど…」

サカモト
「私は韓国の知人に、【またこんな映画がヒットして、韓国はしょうもないなぁ】なんて嫌味を言ったところ、彼は【韓国は昔から権力者の横暴が酷いので、こういう映画が娯楽になってしまうんですよ】って、苦笑していましたけどね」

サイゴウ
「それもまた、【まともな韓国】のリアルな側面なんだけど、日本じゃ、そういう話って、中々わかってもらえなかったりする。【嫌韓】叫びながら日本人の【韓国化】が進んでいるようで怖い」

サカモト
「とりあえず、この『インサイダーズ/内部者たち ジ・オリジナル』については、長くて複雑な内容にも関わらず、無駄な展開のない分かり易い語り口で、三時間全く退屈しませんでしたし、娯楽作品の定石に忠実な映画だったとは思うのですが、後世に残るかと問われれば、それは【ない】作品でもあったと思います」

サイゴウ
「悪く言えば、ブロックバスターにありがちな時流に乗っただけの【使い捨て映画】の見本かもな。でも、政治絡みの話をお子様にも共感できそうなテイストで仕上げた点だけは、高く評価すべきなのかな?仮に日本でこういう内容の映画を作ったら、えらく退屈で排他的、重いだけの憂鬱な内容になりそうだ。観客も、ジイさんばかりみたいな…韓国だから成り立ったような映画」

サカモト
「出演俳優については一見豪華、ビッグネームを揃えているように見えますが、なんだか、これも微妙でしたよね」

サイゴウ
「イ・ビョンホンとチョ・スンウのW主演って、【今だから出来た】キャスティングだよな。二人とも【過去のスター】になりつつあり、以前のような影響力が既に無くなってしまったので、妥協して共演を引き受けたようにしか、オレには見えなかったよ。この作品で本当のスターと言える存在は、やはりペク・ユンシクだけじゃないのか?イ・ビョンホンとチョ・スンウという【大スター】が、今後果たして彼のレベルまで行けるかどうか、怪しいと思っているのはオレだけじゃないはずだ」

サカモト
「でも、イ・ビョンホンは完全に弾けた役でしたから、【仕事の選択肢が随分変わったな】とは思いましたよ。チョ・スンウの方は演技下手なまま、オッさんになってしまって、俳優として隘路に嵌った感アリアリですが、まあ、お爺さんになるまで、それで逃げ切るのもあり、かと…」

サイゴウ
「イ・ビョンホンはホント、笑わせてくれたよな。【イ・ビョンホンがチェ・ミンスになっちゃった!】って感じで。でも、よーく考えてみれば、イ・ビョンホンって、チェ・ミンスの後継者に一番ふさわしい俳優だったのでは?」

サカモト
「今思えば、TVドラマ『白夜』での共演が偶然とは思えなかったりします」

サイゴウ
「でも、イ・ビョンホンには、こういう異常な路線をもっと演じて欲しいと思うよ。彼は日本で【正統派二枚目の美形】みたいな感じでばかり祭り上げられているけど、元々はルックスと個性が相反する【変キャラ】俳優として魅力があったと思う。出演する映画の基準も昔から変だし。多分、彼的にはステレオな二枚目スターとして、世間に決めつけて欲しくないという思惑があったんじゃないか?」

サカモト
「ちょっと古い表現になりますが、イ・ビョンホンって、良い意味で【猟奇的】な俳優だと思うのですよ。そこら辺、日本ではきちんと評価されていない…というか、それを語ることが封じられている気がします」

サイゴウ
「チェ・ミンスもかなり【変な俳優】だけど、演技は上手いし、無二の個性だし、カッコいい。現場じゃ嫌がられるタイプかもしれないけど、男優の【外貨向けユルユル化】が進む今の韓国映画界では、チェ・ミンスみたいな昔ながらの【厄介なタイプ】はやはり必要でもあって、イ・ビョンホンがそれを継承できるとしたら、良いことだと思うんだけどねぇ」

サカモト
「イ・ビョンホンが今後、極端な性格俳優路線で行くのか否かは全く分かりませんけど、今回はそれを予感させる、ひどい崩れ方だったと思います」

サイゴウ
「日本の映画業界が『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』一色で踊らされていた時期、【我関せず】的に『内部者たち/インサイダーズ』が韓国でヒットしていたことについては、やっぱり注目すべきことだったのかな??彼の国も映画に関してはガラパゴス、いつも【グローバリズム】の矛盾を体現しているよな」

サカモト
「それが果たして良い事なのか悪いことなのか、残念ながら我々には分かりませんけどね…」


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『命(いのち)』(2014)★★★★ [韓国映画]

原題
『목숨』
(2014)
★★★★
(韓国一般公開 2014年12月4日)

英語題名
『The Hospice』

日本語訳題名
『命(いのち)』

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(STORY)
ホスピス。

そこは、回復が望めない末期がんの人々が、最後の時を過ごす場所だ。

ある者は家族に看取られながら、ある者は孤独に、この世を去ってゆく。
それは、各々の人生を象徴するかのようでもあった。

日々、そんな患者たちへ気さくに接する現場スタッフたち。

末期がん患者とその家族、そしてホスピスで働くスタッフたちの姿を、静かに優しく、克明に追い続けた傑作ドキュメンタリー。


サイゴウ
「とても感動的な作品なんだけど、癒し系である反面、誰でも直面しうる現実を直接的に描いているので、人によっては悲しい思い出を追体験しちゃう辛い映画かもしれない」

サカモト
「四人の末期がん患者と、その家族が映画では描かれているのですけど、カメラはかなりプライベートなところまで踏み込んでいます。特に臨終の瞬間は、【よく許可してくれたな】、なんて、感心しつつも驚いてしまいました。ですから、被写体になっている当人やその家族の立場からすれば、物凄く残酷なフラッシュバックを生み出す作品かもしれません。日本で同じことをやろうとしたら、自主規制がかかりそうな感じがします」

サイゴウ
「その分、映像に嘘が無いし、作り手側の真摯さ、誠実さを感じる。被写体になる側の信頼を得て撮影に臨んだって、ことなんだろうけど、そこに到達するまで大分時間も掛かったんじゃないだろうか?そういう意味でも力作だった」

サカモト
「でも、語り口はあくまでも静かでドライです。妙に悲しみを盛り上げるような演出はやっていません。そこもいい」

サイゴウ
「あくまでも作り手側が見て、感じたままの事象を再現しているようでもあったな。それゆえ、皮肉なことだけど、死にゆく人たちが生き生きと描かれていた」

サカモト
「映画の進行に伴って、患者さんたちの容貌が変化してゆくのは、観客としても身につまされます。でも、そこに撮る側と撮られる側の利害を超えた絆を感じましたし、それが映画の中で、どんどん深まってゆくようにさえ思えました」

サイゴウ
「被写体の人達はすでに手の打ちようがなくて、対処療法で延命している状態なんだけど、ちょっと運命を達観しているような人もいて、全体的に落ち着いていたのは意外だったな」

サカモト
「もちろん、落胆や悲しみもありますけど、【静かに死を受け入れよう】みたいなものは感じましたね」

サイゴウ
「ただ、残される家族の様子はホント辛いよ。彼らの献身努力が、家族の死でプツン、と切れちゃうワケだからね。そこら辺も忌憚なく描いていたと思うよ」

サカモト
「ホスピスのスタッフにとっても、施設を退職するまで、それが延々と目の前で続く訳ですから、働いている人たちはみんなタフですよね。私だったら、とてもではありませんけど、耐えられないでしょう」

サイゴウ
「だからか、医療スタッフはみんな明るくて、やけに優しかったりする。部長医なんかは、とても気さくだ。患者たちとスタッフたちが一種の擬似家族になっているんだろう。そこら辺の雰囲気はTVドキュメンタリーだと、ちょっと伝わりにくい感覚かもしれない」

サカモト
「除隊したばかりの青年が見習い神父としてホスピスで働き始めますが、その明るい人柄と、彼が患者さんと親しくなる様子を見れば見るほど、青年の心の内には暗いものがどんどん鬱積しているようにも思えて、これも辛かったです。だから、最後に彼が施設を辞めて旅に出るシーンは泣けました。【頑張れ!】って思わず叫びたくなりましたよ」

サイゴウ
「患者の人たちも、看取ってくれる家族がいる人ばかりじゃないのが辛いよな。【明日は我が身】という感じで、他人ごとじゃない」

サカモト
「その象徴なのが、食道がんで声を失ったお爺さんですね。しゃべれないから意思を伝えるのも不自由で、いつもイライラしている。しかも身寄りがないので見舞いがほとんど来ません」

サイゴウ
「だから、お爺さんが時折見せる笑顔や、おどけた様子にはホッとさせられたりする」

サカモト
「でも、最後は独りで死を迎えるしかないという結末が見えているのはやっぱり辛いですよ。あのお爺さんは見習い神父と親しかった分だけ、映画の最後の方になると、その辛さが余計に倍増します」

サイゴウ
「光州から来た四十代の男性は、いつも奥さんや子供たちが一緒で、本人も一番屈託ないように見えるから、【もしかして彼は生き残るかも?】なんて思うんだけど、やっぱり最後に奇跡は訪れない。オレはそれが辛かった」

サカモト
「彼は絵に描いたような純朴な人で、年齢が若い分だけ生き残る希望を持っているのですけど、映画が進むにつれて病状が進行し、どんどん元気が無くなってゆく。家族仲がいい分、彼の子どもたちにとって【この映画がトラウマにならなければいいのだけど】なんて思いましたよ」

サイゴウ
「映画で扱っている題材は実体験がないと関心を持ちにくいネタではあるんだけど、決して末期がん患者の様子を描いただけの内容ではないと思う。韓国における医療福祉の問題や、高齢化に核家族化といったことについても、何気に問題提起していたんじゃないだろうか。この映画に出てくる患者の人たちは、どちらかと言えば、まだまだ恵まれている方だったと思うよ」

サカモト
「あくまでも、ホスピスで人生の最後を過ごす人々の様子をありのままに粉飾しないで提示しようとしている作品だったと思うのですが、情報密度が高いので、図らずも観る側が様々なテーマを抽出できる作品だったのかもしれませんね」

サイゴウ
「とても優しい印象の映画ではあるけど、見た目とは裏腹に、本質はかなり厳しい性格の作品だったんじゃないかな?」

サカモト
「日頃、韓国のドキュメンタリー映画を観ていると残念なことにお勧めできる作品はあまりないのですが、この『命(いのち)』は、機会があれば是非観て欲しい傑作だったと思います」


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『ビッグ・マッチ』(2014)★★ [韓国映画]

原題
『빅매치』
(2014)
★★

(韓国一般公開 2014年11月26日)

英語題名
『Big Match』

日本語訳題名
『ビッグ・マッチ』

勝手に題名を付けてみました
『デス・マッチ イン ソウル』

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(STORY)

チェ・イゴ(=イ・ジョンジェ)は、韓国で開かれている総合格闘技のチャンピオンだ。
兄のヨンホ(=イ・ソンミン)がトレーナーを務め、彼の妻ヒョンス(=ラ・ミラン)と共に、ソウルで格闘技ジムを家族経営している。

イゴが日課である早朝のロードワークに出かけている間、ジムではヨンホが何者かに拉致され、現場に首を折られた悪質な賭博主催者(=ソン・ジル)の死体だけが残されるという事件が起こる。

ヨンホと賭博主催者は以前から揉めており、状況証拠から、イゴが第一容疑者として、ト刑事(=キム・ウィソン)に逮捕されてしまう。

無実を訴えるイゴだったが、アリバイを証明するものがない。
だが、同じく収監されていたホームレスに高度な通信機と腕輪を渡されたことから、全てはエース(=シン・ハギュン)と名乗る男が画策した陰謀だったことが明らかになる。

無理難題をイゴにふっかけ、それに応じなければ、ヨンホを殺すと脅迫するエース。

エースはソウルの街を会場に見立てて、イゴが難問を突破出来るか否かのゲームを、金持ち相手のギャンブルとしてプロデュースしていたのだ。

ムチャクチャなエースの指令に赴くまま、警察を脱走したイゴと、彼を追う者達の大追跡戦が始まった。

ゲームの途中、イゴは謎の女スギョン(=BoA)と行動を共にするようになるが、ヤクザ、トキ(=ペ・ジョンウ)の賭博場に乱入させられたことから、二人は共闘せざるをえなくなる。

だが、格闘技に長けたスギョンもまた、エースの企みに翻弄された犠牲者の一人だった。

ヤクザと警察を巻き込んだ大混戦は、日韓サッカー試合会場を経て、遂に旧ソウル駅の最終決戦へともつれ込んでゆく。

サカモト
「今回の作品は、まるで絵に描いたような【WELL MADE】の娯楽作でしたね」

サイゴウ
「韓国市場でビジネスとして求められる【商品としての映画】として見れば、非常に素晴らしい作品なんだろう。テキトーに映画館行って、映画を観ながらポップコーン食べて、上映中にLINEに興じて、でかい声でおしゃべりをして…でも、劇場を出た途端、観た映画の記憶はない。消耗品として理想的な映画だな」

サカモト
「総合格闘技にオンラインゲーム、賭博と、韓国人の大好きなものが沢山詰まっていますし…」

サイゴウ
「そこら辺のマーケティング感覚も凄いと思う。【何をどう集めれば、いかほどの収益が出る映画になるか?】については、専門家からすればデータがあれば、シュミレーションする事はそれほど難しいワケじゃないけど、この『ビッグマッチ』のエラいところは、それを巧みに映画に昇華させていることだろう。いわば、【CF臭を感じさせにくい広告】って感じなんだけど、今の韓国映画は、そうしたテクニックが、かなり洗練されていることがよく分かる作品でもある」

サカモト
「日本のメジャー作品も似たようなことをやっていますけど、韓国映画ほど割り切っていないような気はしますね」

サイゴウ
「まさに、ハリウッド映画のマーケティング・スタイルを韓国市場に合わせて換骨奪胎しているワケなんだけど、日本映画も、もっと真似すべきじゃないかと思ったよ。なにせ、日本も韓国も狭い国内需要が一番の収益対象なんだから…」

サカモト
「韓国では、さぞかし大ヒットだったことでしょう。この『ビッグマッチ』は…」

サイゴウ
「どれどれ、毎度おなじみのKOFIC(韓国映画振興委員会)の資料で確認してみよう、うーん…」

サカモト
「よく出来た【WELL MADE】ですから、観客動員数300万人は軽く超えているでしょう」

サイゴウ
「なになに?!【スクリーン数627】【累計観客数1,177,438人】だって。なーんだ、大したことないじゃんか。損益分岐点が興行収益何ウォンだったかは知らないけど、ちょっと微妙な数字だな」

サカモト
「でも、映画を見た限りでは、製作費はそこそこ抑えている印象を受けたので、コストパフォーマンス自体は良かったのではないかと…」

サイゴウ
「結局、イ・ジョンジェ主演だからな。悪玉役もシン・ハギュンだし。そこら辺もなんだか微妙」

サカモト
「それでもって、ヒロインがBoAですから、これまた微妙です」

サイゴウ
「言っちゃ悪いけど、若い観客からすれば、あまりにもロートル過ぎるキャスティングだな、こりゃ」

サカモト
「なにやら、【韓国映画とK-POPバブルをもう一度】みたいですし…」

サイゴウ
「イ・ジョンジェにシン・ハギュン、そしてBoAの組み合わせなんて、三十代から四十代の人たちにとっては、結構興味を惹かれるキャスティングかもしれないけど、今の韓国じゃ、その年齢層が一番映画を観ないだろうし、目は肥えているから、あからさまな【WELL MADE】は、観る気が起こらなかったんじゃないかな?若い観客にすれば、やっぱり【リサイクル品】と言われても仕方ないし…」

サカモト
「BoAなんて、昔のイメージ皆無なので驚きましたよ。【こんな顔だったっけ?】って感じで…」

サイゴウ
「薄めのメークだったけど、もしかして、日本で活躍していた頃は、相当盛っていたんじゃないのか?そう言えば、彼女の顔をじっくり観たのは、今回が初めてだったかもしれない。でも、俳優としては、そんなに悪くなかったけどな。演技的にはギリギリだけど、タッパの低さを隠すことなく、逆に活かしていたからね。あんまり存在感はなかったけどな」

サカモト
「シン・ハギュンは、ちょっと違和感がありましたね。変な髪形が似合わないこと、似合わないこと。それに、彼にああいう型に嵌まった悪役をやらせることは、【宝の持ち腐れ】だと、いつも思うのです。幅の広い俳優なのに…」

サイゴウ
「シン・ハギュンって、【変キャラ】がデフォになっちゃったのかな?そこら辺、一時期変な役ばかりふられていたパク・ヘイルの方が作品に恵まれた感がある」

サカモト
「確かに、シン・ハギュンって、作品に恵まれていないイメージはありますね」

サイゴウ
「今回は、かなりビジネスライクに開き直って仕事をやっていたと思うけどね」

サカモト
「この『ビッグマッチ』、まとめると【悪くはないけど良くも無し】という、ブロックバスターの典型といった感じで終わりの作品ですかね?」

サイゴウ
「まあねぇ…だけど、これだけは言っておきたい。主演のイ・ジョンジェだけは、ホント、凄くいい。彼が四十過ぎて、こういう役をやることについては、ファンの間でも賛否両論あるだろうけど、若い頃より遥かに格好いいし、【似非演技派】というイメージから解き放たれた今だからこそ、ちょっとタイミングは遅かったけど、本領を発揮しつつあるんじゃないだろうか?アクション俳優としては、かなり苦しいけれど、オレはその姿勢を応援したいし、高く評価したい」

サカモト
「イ・ジョンジェは、俳優として第二の黄金期が来ているのかもしれませんね」

サイゴウ
「それと、イ・ソンミンの肉体改造が心配になっちゃったよ。ありゃ、やり過ぎだろ?後で反動が来そうだ」

サカモト
「まるで別人でしたからね。かなり無理をしていたのではないかと…」

サイゴウ
「ラ●●ップの宣伝に使えそうだよな」

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